■その夜の話
ホルミスダスの執政官のリボソームの料理も終盤を迎えていた。最後のドルチェ、デザートの時間となっていた。
「ごちそうさまでした。美味しかったですお腹いっぱいです」
ティラミスを食べ終えた晴明は十分満足してリボソームに礼を言った。一夜の宿も借りる算段となっていた。
晴明ら男たち四人には一つの部屋で雑魚寝をしていた。
「オオガミさんごめん!」
晴明はそう言うとまったく警戒していないオオガミの指をナイフで切った。オオガミはよけもせずにそのナイフを受けたが、もちろん一瞬にしてそのくらいの傷は元通りとなっていた。
「なんだ晴明、突然・・・・もしかして気が付いていたのか」
「どういうことです晴明君、オオガミさんに切りつけるなんて」
「いやいいんだ久遠、晴明は気が付いてしまったんだ。俺の体の異変に」
「やっぱり、何かおかしかったんだ、古代神殿でも簡単に睡眠の罠にかかっていたし、でも今は普段通りだねどうして」
「昼間は普通の体になっちまっているんだ。この地底世界に来てから、ヨモツの目が閉じれば普段通りの不死身の体だが」
「水臭いじゃない、そんなことくらいちゃんと打ち明けていてよ」
「ハルアキ、戸惑ったんだろうオオガミさんは今まで朔(新月)の時しか経験していない体調の変化がずっと続いたんだから、でも念のため昼間になったら少し調べさせてください」
宝蔵院はこの地下世界とオオガミの不死身の関連に興味を持ったようである。
「俺のことはこれでいいな。それよりカグヤだ。あいつはまた何か隠しだしたな」
「そう僕も感じていたんだ。なんだかこのままいなくなりそうで心配なんだ。久遠さんならなにかわかるかな。晴海のこともよく理解していたみたいだし」
「僕なんかに若い女性の気持ちを聞いても無駄ですよでも、彼女は何かを隠していることはわかります。特にこの地底世界アガルタに来てから様子が普段とは違うことは僕でもわかります」
「あれが関係しているのかな。父さんから聞いたんだけどカグヤが自ら言った言葉でメメント・モリと言う別名をつけられていたということ」
「メメント・モリ、古いラテン語”死を想え”という意味ですね。何かを暗示しているのでしょうか、不死血清が手に入りそうになったことで何かをしようとしているのですかね」
「いずれにせよ僕が、彼女を見張っていますから任せておいてください」
久遠は胸を叩いてカグヤのためになろうとしていた。




