●諜報機関
「ゴラン爺さん、邪魔するぞ」
ヘイ・オン・ワイ商会の店を訪れた。客はいないゴランのみがカウンターに腰かけている。
「遅かったな。あまり飲み過ぎないようにな」
夜宴は深夜過ぎまで続き、酔い覚ましに朝風呂を浴びてこの時間になった。
「用件はわかっているよな」
「こちらへ来い」
店の奥の本棚の何冊かを引っ張り出すと本棚が動き始めた。奥へと続く通路が現れた。
さすが諜報機関だ。やることがそれっぽい、中には大勢の諜報部員がいて暗号解読やら地図への書き込みいろいろな仕事をこなしている。会議室にゴランは入っていた。
「閣下、こちらがユートとエンドワースの敵に関する報告をまとめたファイルです」
10冊余りの分厚いファイルの山を指した。
「おいおい、これを読めというのか、簡単に説明してくれよ」
「しかたないのう」机の上の鈴を鳴らした。
「お邪魔します。閣下」一人のグラマラスなスーツ姿のメガネ女子が現れた。
「紹介しておこう。秘書兼分析官のミス・ぺティーだ。彼女に聞いてくれ」
丸投げか、しかし短いスカートだな。
「初めまして、閣下、ぺティーと申します。どのようなことから説明させていただきましょうか」
「よろしく、まずは現状のユートから聞かせてもらおう」
俺の第二の故郷、最初に進行を受けた都市だ。
「駐留の兵士は二千人、それを率いているのはツチグマという魔人で不死身に近い身体を持ち兵士たちの信望も厚く敵の将としてはなかなかの人物かと思います。シーモフサルト兵はクラディウス家屋敷付近に五つの兵舎に集められています。指令室に屋敷をツチグマが使っています。港には八隻の大型戦艦と巡洋艦が十隻があり、そのうち半分はユートガルトから奪った船です」
防衛ラインのドメルには五千騎以上の兵士が常駐していて、守りは今のところ心配はない。
「つまり今のところドメル進行の準備は済んでいないということだな」
「そうですが、隣国エンドワースの山間都市ミノ、山脈を隔てたドメルの隣接の街に五千の兵を集積しております」
ユートを挟み撃ちにした山岳ルートの街だな。つまり二つの軍でドメルを攻める算段か、やっかいだな。しかしあの山道をどう越えるのだ。
「ミノの街の探りはどうなっている」説明するたびに長い足を組み替えるしぐさが気になるが
「山間都市ミノの街の軍隊を束ねているのはカルヤシャという女魔人で、冷酷で残忍な性格で恐怖により兵を導いています。四千名の兵士は元エンドワースの兵隊たちでそんなにカルヤシャに協力をしているようには見えません。その兵士たちで山にトンネルを掘っております。すでに四つのトンネルが開通されており、順調にいけばこの冬にはドメルまでの道が出来上がってしまいます」
タマモの両親の仇はカルヤシャというのか、しかしまずいなそんな工事をしていたとはのんびり構えていたらいっきにドメルを攻められたところだ。
「ありがとう、いい調査をしてくれた。ほかに聞いておく情報はないのか」また組み替えた。ミニスカートをはくなよ。
「エンドワースの首都オワリにテンコという魔導士がいます。ツチグマ、カルヤシャ、テンコこの三人がマサカドの側近で攻撃のすべてを任されております。オワリに関してはただいま詳しく調査中です」
ふと見るとゴランは居眠りをしている。
「ゴラン、ほかになにかあるか」
目を覚ましてまた鈴を鳴らす。
「失礼いたします。閣下」
また誰か入ってきた。
「開発部のQじゃ、閣下を案内するのだ」
研究室のような所にやってきた。
「これが最近開発された魔道具です」
インカムのようなものを渡された。
「魔石に込められた魔法力で遠くのものと会話ができます」
ますます諜報機関だな、秘密のガジェットまであるじゃないか。
「どのくらいの距離だ。通話可能なのは?」
「閣下の魔法力ですと一キロは可能かと」
なるほど魔力の強さで通話エリアが決まるのか。一キロもあれば戦闘の指令には申し分ない。
「10セットくらい用意しておいてくれ、あとで取りにやらす」
他にも何かありそうだな。武器搭載の馬車とか腕時計型の爆弾とか
「まだ何かあるかQ」
「これはいかがです。靴に内蔵されたナイフ」
「それはいらない」
「ライター型の火縄銃です」
「それもいらない、もういい、Qありがとう、がんばって開発してくれ」
肩をたたいて部屋を出た。
「ありがとう、諜報部のみんな頑張ってくれ」
イ・オン・ワイ商会をあとに城へ戻りオオガミと中隊長たちを部屋に呼んだ。
「集まった情報をもとに考えたのだが、近衛旅団を二つに分けてユートとミノを攻める」
「早急すぎないかハルト、王様になって一週間ほどだぞ」
「いや、グズグズして敵の準備が整ってしまったらどうにもならない。ユートにはオオガミとアーカムス隊とオオミドウ隊、ミノには俺とアオナ隊にキグナス隊、モモ隊で向かう」
そしてその夜は作戦と役割の説明をして終えた。明日は出陣だ。