●ドメル集結
旅団はドメルへ向い初夏の風を受け行進を始めた。続くはユートガルト正規軍総勢一万人の砂煙舞う壮大な行軍だ。同時にベール海軍がユートの港に向かっている。
どれほど軍費を使っているか負けられない戦いの始まりだ。ユートガルトの紋章八咫烏の旗がなびいている。旅団の各部隊は同色のマフラーをなびかせている。アーカムスのアイディアだ。さすが、中隊長レンジャーのリーダーだ。中隊長レンジャーの呼び名は俺だけが使っているのだが、ほかの者には意味をなさないだろう。
輸送には魔石を使った軍用のトラックが何台も動員され夜も早いうちにドメルには到着できるだろう。スピードがこの作戦のキモだ。奴らが気づいたときはもう遅いという状況を作れれば半分以上作戦は成功だ。各主要都市の軍もドメルへと集結し始めている。
大の月が満月に東の空から顔を出し小の月は天空に恥ずかしそうに半分光り、ドメルの城壁を照らし相変わらず頑強な姿を闇夜に映し出していた。
「アルジェ、悪いが山猫軒に行ってソーセージや料理を買ってきてくれ、晩飯にしたい」
「ご主人様、かしこまりました。タマモも手伝って」
「タマモ、明日は作戦があるので酒は呑むなよ」
「はーい」
二人は城壁の入り口に去っていった。
「オオガミ、中隊長たちを俺のテントに集めてくれ、最後の確認がてら飯を食う」
「閣下、かしこまりました」
兵たちがいるときはオオガミが敬語を使うようになった。オオガミ曰くこれが軍隊だと、俺としては普通に呼んでもらった方が気安いのだが。
外壁の周りに夜営のテントが次々と設営されていく本陣のテントで買ってきた料理で夕食を取っていた。
中隊長レンジャーたちはドメル生活が長いので山猫軒はよく知っていて、アルジェのチョイスもよく各自の好みの料理が注文されていてメイドとしての能力の高さに改めて感心した。
「ガートベルト卿がお見えです」
見張り番が告げてきた。
ドメルの領主、カイン・ガートベルトだ。六年ぶりの再会となる。あの時は食事の誘いを断ってしまったな。
「入ってもらってくれ」
「閣下、ご挨拶が遅くなりました」
膝をついて頭を下げている。
「ガートベルト久しぶりだ。頭を上げてくれ、長い間会いにこれなくて済まなかった」
「やはり、あのドーマハルト様でしたか驚きました。国王戴冠のお触れをいただきましたが、この目で見るまで失礼ですが信じられませんでした。国王になられるとは」
「俺もだ。こんなことになるなんて、約束の飯でもここで食っていってくれ」
「はっ、ありがたく頂戴いたします」
そして明日からの作戦を細かく説明した。あまりの途方もない作戦におどろき感心していた。
「なるほど、それでこんなにお早く集結されたのですか。わが軍をご自由にお使いください」
「ありがとう、オオガミからも聞いているがなかなかよく鍛えているようだな」
「こちらこそオオガミ殿には何度も助けられた。ユートからの進行を防げているのは間違いなく彼とイソルダ、アルジェの働きです」
確かに仕送りの金額に現れている。その節は大変お世話になった。
「さあ、明日は必ずやり遂げるぞ!そして山猫軒を貸り切ってビールで乾杯しよう」
翌早朝、タマモの故郷の村跡を全軍は目指して攻略の拠点の砦を建造する。
村は六年前と変わらずそのままの姿であった。タマモが花を摘んで両親兄弟の墓に供えている。
「タマモ、ヘルマおばさんには挨拶したのか」
この子の唯一の親族、母親の姉だ。
「うん、昨日の夜、山猫軒へいった時に会ってきた。お母さんに似てきたねと言われちゃった」
目を閉じ祈った。
「みんなの仇はカルヤシャっていうやつなんだね。私が絶対に倒してやるって報告したのよ」
涙が溢れないよう上を向きはっきりと言った。この子に復讐だけで生きてほしくはないが、避けて通れない敵の一人だ。
「よし、俺も加勢してやるから二人で仇を打とう」
頭を撫でてハンカチを渡した。
「オオガミ頼んだぞ」
俺たちが逃走した山越えルートでオオガミ部隊、旅団たちが先にユートに潜入して、同時に山を迂回して本隊一万騎が攻め入る。
「任してください閣下、アーカムス、オオミドウ、通信装置は付けたか行くぞ」
赤いマフラーのアーカムス隊と緑のマフラーオオミドウ隊が続いて先陣を切った。
「よし、イソルダ、アルジェ、アオナ、キグナス、そしてモモ俺たちの仕事をするぞ」
青いマフラーのアオナ隊、黄色いマフラーのキグナス隊、ピンクのマフラーのモモ隊はドメル兵三千騎を率いてミノへ続く山道を目指した。
ユートガルトの海、三隻の軍艦がユートを目指す。
「ハルト、待っていろよ。必ず時間に間に合わせるぞ」
その海軍を率いているのはミシェル・スワン、ドーマハルトの大親友だ。
陰陽師のスキルの八卦見で占ってみると大吉の神託を得た。だが、油断は禁物だ。陰陽の面をかぶり紐を締めた。いざ行かん!




