◆猫の草紙
御堂たちの列車はベールに到着しようとしていた。
「天ミニちゃん、あの猫の草紙の話だけど私たち龍族が猫と言うわけなの」
サマラの言った一言にバスクルが反応した。
「我々が悪さをする鼠とは言われたもだな。それは一部の魔族は本能のままに暴れたであろう。本能ということですまされたものではないが、今、地底世界アガルタの住まう魔族を見るがいい」
「まだ地底世界を見たことがないものでな。どうなっているんだ。何か聞かされているかサマラ」
ヨシュアの言うこともごもっともである。雄の龍族は何も聞かされずに同じく地下に隠れ暮らした一族である魔族に関しては幼いころから畏怖するべき存在であることを教え育てられてきた。
「ううん、魔族を迷宮に閉じ込めた事なんてアースラから聞いてないわ」
「彼らは本能を見事に理性で制御して、完全なる平和な世界を地下に築き上げていたんだよ」
天ミニは捕捉した。
「われらは月の女神アルテミス様に帰依したんだ。しかし地上に戻ってこのようなありさまということは誰の心にも争いを望む根と言うものは消えないものだな」
「それが本当ならわれら龍族もこの世界を支配しようとしているわけではないぞ。エヴァとアースラの強い意志を受けこんなかわいらしいサマラと出逢うためにお互いを自制して別れ生きてきたんだ」
「あらいやだヨシュアたら」
サマラはヨシュアに抱き着いてキスをする。
「お熱いところを見せつけられてなんなんだが天ミニさんよ、これも教団が仕組んだというんだな。まったく奴らの目的は何なんだ」
「貴具さん、簡単なことですよ。人と人のつながりを断つことですよ。奴らはお互いの心を通じ合わせて欲しくないんですよ。分断が奴らの狙いです。そのために長い年月、争いの種をまき続けている」
「われらの時代でそれを止めたいですな」
御堂は目を閉じて頷いていた。
「間もなくベールです。下車の準備をしてください」
車掌が告げに来た。




