■ホルミスダス昔ばなし
まさしく魔女の館と言った古びた一軒家であった。地底世界アガルタで一番長生きした魔族の住居がここである。晴明はその館をしげしげと見つめながら中へ入っていった。
「あの天鼓とかいう坊やのおかげでこんな若返らしてもらって感謝の言葉しかないわい」
とはいっても死んで兄同様ゾンビとして活動しているだけで生きているとは言えないのであったが
「でもすごい長生きしましたよね。バーバレラさんの種族では普通なんですか」
晴明は藤原盛俊と名を変えたサテュロスのことを思い出していた。晴海の先祖として長生きしていたのだと伝えられていた。
「お前さんはわしらの能力を知っておるのじゃろ」
「ええ、ゲームをして勝てば相手をメダルに変えることができるやつでしょ」
「おおそうじゃ、そこの壁を見てごらん」
壁には数枚の魔族の顔が掘り込まれたメダルが並んでいた。
「これが何か関係あるんですか」
「メダルを自分の体に取り入れれば生命力も我がものとなるのじゃ、それが長生きの秘訣さ」
メダルには能力だけでなく生命力まで奪うことができるとは想像すれば容易に分かるのだが実際にそうして長生きしている姿を見て驚く晴明であった。
「でもこんなにメダルがあるならまだもっと長生きできてたんじゃないの」
「そこにあるメダルは私が愛したものたちだよ。そのメダルは使えん、たまにメダルから取り出して語りあう日々もあったのじゃよ」
晴明は愛おしそうにメダルを見つめるバーバレラを不思議に思っていた。
「わしはこのアガルタにいるたった一人の死刑執行人なのじゃよ。罪人がいればその命を喰らう、しかしこの世界は罪人がどんどん減っていたのじゃよ。平和な世界を維持できておるおかげじゃ」
平和な世界は一人の魔族の寿命を縮めていたとは皮肉な話である。晴明は何とも言えない気持ちとなっていた。
「バスクルとは300年ほど前にちょっとしたケンカでお互い意地を張って会わずにいたら死んでいたとはなはっはっ」
笑うところかどうかわからず相槌も打てない晴明は困っていた。
「まあよいか、わしは食わぬが夕飯を作ってやろう」
「え、いいんですか、楽しみだなアガルタ料理」
キッチンへとバーバレラは入っていった。
しばらくするといい匂いがしてきたのだった。晴明は腹を鳴らした。
「パンとスープだが口に合うかの」
テーブルの上に置くと晴明に進めた。干し肉と根菜が煮込まれたスープはいい出汁でパンをちぎって漬けて食べ始めた。それを見つめているバーバレラは
「そうそうもの言う石の話じゃったな」
「世界樹さんに聞いたんだけどグシュナサフにあるんですよね」
「いや今はホルミスダスに幽閉されているのじゃよ」
「幽閉?人なんですか」
「いや、知識の塊じゃよ。その姿は液体じゃが金色に輝いておる」
なんとも不思議な物体のようである。晴明は水銀のようなものを思い浮かべていた。
「兄が言うにはアスタロトたちに決して渡してはならんと言っておった。それでわしらが隠したのじゃ」
「知性があるんですかもの言う石には」
「ああそうじゃ」
晴明は食べることを忘れバーバレラの話に聞きいっていた。




