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●戴冠式

 久しぶりだこんなに頭が痛いのは、ベッドには酒の空き瓶が五、六本以上転がっている。こんなに呑んだかと思うと横に酒瓶をつかんだままのタマモがいびきをかいている何本かはこいつの仕業だと理解した。

 戴冠式はお昼だが、このまま逃げ出したい気分だ。食欲は失せているが無理やり食事をしながらの打ち合わせだ。どこかで見たことのある男がいた。そうだ俺が俺になる前の話、八歳までの頃だ。年に何度も俺の様子を見に来ていたスミエル宰相いう男だ。前王の側近だったのか道理で父親が頭を下げへこへこしてたわけだ。柔和な表情とは裏腹に秘めた英知を備えた有能な人物だと感じた。この男がいなければ(まつりごと)はスムーズに動いていなかったろう。それでその男は何年も前から俺に関心を持っていた。この事態も彼が計らったに違いない。あとの大臣たちはこれと言って箸にも棒にかからぬ役に立つとは思えない役人たちばかりだった。


「ハルト、戴冠式の打ち合わせだ。来てくれ」ミシェルが呼びに来た。

「わかった。頼みごとがあるんだが聞いてくれ。ドメルにいるオオガミたちを早馬でここに来るように伝えてくれ。あいつらが必要だ」

「わかった今日中に伝令をドメルに送る。スミエル宰相が待っている」


 スミエルの待つ部屋に案内された。

「ドーマハルト、立派になったな。爺もうれしいぞ」抱き着いて来た。

「六年たったか。おまえの母親、わしの娘も不憫であった。わしもシーモフサルトが憎い、お前の手で仇を取ってくれることが爺の望みだ」

 なんてこった俺の血縁者、爺さんだったのか、道理でよく様子を見に来ていたわけだ。

「今日からお前はドーマハルト・ガルトとなりこの国の王だ。孫を国王にするのが夢じゃった。そこでじゃ今お前が連れている娘じゃがわしの養女という形にしたいと思う」

「ちょっと待ってくれ、なぜそんなことをする」タマモを手放す気など今更ない。

「形だけじゃ、今まで通りにしてもらって構わない。格式というものがある」

 王として邪魔な親族まがいの人物がいるとややこしいことになるというわけか。

「わかったタマモにも伝えておく」

 そして、王妃と兄弟たちは戦場から遠いミッチーの領土で隠居するということだった。すでにベールに向かっていると聞くが、おそらく爺さんは刺客をつかって旅の途中で亡き者にしようとしているに違ない。そんな気がする。


 部屋に戻りタマモに言うと

「それじゃ妹じゃなくなるのね。結婚できるじゃない。ハルト結婚しよ」何を言いだすやら困ったやつだ。

「いいや今まで通りおまえは妹、名前がタマモ・スミエルになっただけだ」

「ちぇ」


 戴冠式は本当に一部の重臣たちだけで行われた。


 そして王となった。


 王としての執務はすべてスミエルに移管し自由な時間が多くとれるようにと宣言した。

 そしてスミエルに言って、宝物庫と図書室のカギをもらった。王となると決めたのはこの特権を使わせてもらうためであった。禁書や転生のためのアイテムがあると感が告げていた。

 何かに引き寄せられたかのように宝物庫で桐の箱に入った不思議な仮面を見つけた。細い目の部分だけが開いた真っ白な面だ。鑑定を使うがさっぱりどのようなものかわからない。呪われてはなさそうだが。面をつけ紐を結ぶ。急に意識が飛ぶと何かの知識が水のように頭の中に流れ込んできた。


「陰陽道?」


 こんな西洋のような世界になんでこんなものがあるのだろう。その知識に興味深いものがあった。時代を超えてその魂を召還する(わざ)だ。

 そしてあるアイディアが浮かんだ。しかしかなりの危険を伴う禁断の選択だ。心にとどめるだけで今はこの国の平和を取り戻すことだけを考えよう。

 宝物庫ではこの面のほかこれといった興味を引くものを見つけられなかったが、大収穫である。次に図書室で飯を食うのも忘れ本を読み漁った。

「ハルト、ご飯食べようよ」

 タマモが呼びに来るまで時間がたつのも忘れていた。

「ああ。そうしよう。腹ペコだ」

 ミシェルは国へ戻ったようで二人で夕食を取った。

「王様の食事は美味しいねハルト」

 確かに超一流の料理人を雇っているのだろう。上品な食事はフランス料理のようであった。ワインも素晴らしい。この瞬間は王であることに喜びを感じていた。

 レアステーキを口に運ぼうとしたとき

「ハルト、どういうことだ説明してくれ」

 軍服姿のオオガミが飛び込んできた。

「オオガミひさしぶり、イソルダとアルジェは」

 タマモが言った途端、その二人はメイド姿に着替えてから入ってきた。

「みんな早かったな。俺はユートガルトの王になったぞ」

 ステーキを食べながら、あれこれ事情を説明した。

「驚いたな。そんな身の上だったとは、スミエル宰相が娘の為だけにではなくクラディウス家を頻繁に訪れていた理由も今になって理解した。そんなたくらみを持っていたんだな」

「ああ、かなり昔から企てられていたようだ」

「そんな身分になっては自由に動けないだろう。どうする」

「ああそれには考えがある。王直属の軍隊を作るぞ。オオガミお前が司令官だ。そして補佐はイソルダとアルジェ、頼んだぞ」

「ありがとうございます。ご主人様、正規の兵士になりたかった夢がかないます」

 イソルダもアルジェも喜んでいる。

「オオガミ、一個大隊を編成して率いてくれ。人選はお前たちに任せた」

「勝手なやつだぜ」


 スミエルの許可も取って翌日からその軍隊は動き出した。

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