■火鼠
朝も突然やって来た。朝焼け夕焼けと言った風情もなくスイッチをオンオフするようにこの地底世界では何百年も続いていたことなのだが。
「バスクルの地図では今はこのあたりです。ラルヴァンダードまではあと最低二回は夜営をすることになりますが気になる場所があるので寄り道をしてもいいでしょうか」
「アーティファクトだね」
「晴明君その通り、この火鼠山という地名が気になるんです。バスクル、この地名について何か知っているか」
「この地図に書かれてある地名はわれらが考えたものではありません。それぞれの場所の石柱が示唆するのです」
「示唆するとは?どういうことだ」
「その石柱に触れた者はその場所について啓示を受けるのです」
晴明と宝蔵院は顔を見合わせた。オオガミの過去を除いたときにも石柱と言う存在があったからだ。
「石柱は崩れちゃうの啓示を与えたら」
「いえ、それからは輝きを失い何もしゃべらなくなるだけです」
オオガミの石柱とは違ったもののようだった。
「なるほどただの道しるべか、カグヤはどう思う」
「キーワードは火鼠ね。燃えない衣、阿倍御主人ゆかりのアーティファクトの名」
「行ってみる価値はあるよね」
「異論がなければオオガミさん、行っていいですよね」
「ギリギリ夜までにはたどり着けそうだな。よし出発だ」
八頭の大ヒクイドリは走り出した。
昼の休息をとる晴明たちは地底世界の自然の美しさを堪能していた。空には朱雀と見間違えるよう朱色のきれいな鳥が飛んでいると思えば、翼竜の群れが飛んでいくのが見えた。
「天鼓君、あれってもしかしたら始祖鳥ってやつじゃない」
「確かに特徴は一致しますね。ペルシダーの物語みたいに恐竜たちがいるかもしれませんね」
「ワクワクするね。ジェラシックパークだ」
お気楽な晴明はまさか恐竜と相まみえることになろうとはこの時はまだ思って、思ってもいなかったのだった。




