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●戴冠式前夜

 さすが首都だ。田舎者のようにきょろきょろとあたりを見回すと高い城壁に囲まれ中央の城から放射線状に道が広がる光景に圧倒される。馬場に馬を預けてミシェルにこれからの予定を聞くと式は明日、まだ時間があるとのことなのでいっしょに昼食(めし)をとることなった。


「お尻が痛いよーお腹が減ったよーハルトー」タマモはいつものごとく飯の催促だ。

「ガルトは初めてだ右も左もわからない。案内してくれよミッチー」

「そうだな、何か食べたいものはあるか、お嬢ちゃん」

「美味しいお酒と抜群の料理!」聞くだけ無駄と思ったほうがいい。

「何か名物料理はないのか」

「どうかな、ここは首都だ。何でも物は集まってくるのでどんな料理もあるぞ」

「じゃあミッチーがうまいと思った店でいいよ」学生時代からもそうであるが彼の舌も確かである選んだ店にハズレはなかった。

「肉でも食うか、自分で肉を焼く変わった店があるんだ。ビールもうまい」

「賛成!」タマモが飛び上がって喜んでいる。ビールもそうだが肉もあまり食わせてない。情けない話だが、俺も焼き肉形式で食べさせる店なんて現世以来だ。


「たのんだよ」テンションが上がる。

 もうもうと煙を上げている店の前に着いた。匂いも焼き肉屋のそれだ。腹がなる。

 店に入るなり「ビール三つだ」大声で叫ぶ、いかんいかん気がはやっている。

「ここは俺のおごりだ。まずは乾杯、おっとその前に報酬だ」金貨二枚を受け取った。

「乾杯!」この肉の焼ける匂いだけでも一杯飲める。

 メニューを見るとまさに焼き肉屋だ。それぞれの部位別で注文ができる。そしてスープや白米がある。手あたり次第に注文をする。勘定はミッチー持ちだと気を使わなくてもいい彼は金持ちだ。

「おいおいタマモまだ生焼けだぞ、落ち着いて食え」こうしてみるとまだ十二歳の子供だ。

「だって、うぐうぐ、美味しいんだもん」食べながら答える。レディとしてもう少し食事のマナーを仕付たほうがいいな。そんな目でタマモを見つめる俺を見て

「こうしてみると妹というより娘のつもりだなハルトは」鋭いなミシェルは

「そんなことより、どうだ新婚生活は、ハルナは満足しているか。そうだな元気をつけるため肉を選んだのか」

「何をばかな。そんなんじゃないよ。ちゃんとしてるよ」

「何()()()()()()()()?」タマモが尋ねなおした。

「おい、ハルト何とかいってくれよ」こういうことに慣れていないクソまじめなやつだな。相変わらず。

「ところで帰りも送らないとだめなのか?クエストじゃなくタダで同行するぞ」

「いや帰りはいい、それより俺と一緒に城に泊ってくれ、部屋が用意されている」?あやしいな、何か隠しているな。まあいい、これだけ歓待してくれたんだ気にしないでおこう。

 昼からたらふく呑み食いして城へ向かう。途中色々な店をウインドショッピングしながら城への道を進んだが、タマモが洋服屋の前から動かない。

「ねえハルト、この店に入っていい」高そうな洋服屋の前でおねだりをする。ミシェルからの報酬もあるししかたない。

「いいぞ、でも一着だけだぞ」

「わーいハルト大好き」30分もあれこれ試着をしては見せに来る。陽子の買い物もこんな調子だったな。女の買い物に付き合うのも楽じゃない。結局ねだられ三着も買わされてしまった。甘いな俺も本当の娘にもこんな調子だろうな。上機嫌なタマモは新しい服を着て店を出た。

「こうしてみると素敵な女性になったね。タマモちゃん」ミシェルのお世辞に

「ミッチーも何か買ってよ」しっかりおねだりをしている。なかなかの性格に育ってくれている。付き合う男は苦労しそうだ。付き合う?と考えたとたん嫉妬に似た感情が芽生えた。おいおい娘だぞ。これが父親というものか。

「おいタマモそんなことを言っちゃだめだぞ」

「いいじゃないかハルト、タマモちゃん別の店で僕が買ってあげるよ」

「ミッチーも大好き、ハルトの次に」やれやれ、そして城に着くころには荷物が倍に増えていた。ミシェルも娘ができたら甘やかすんだろうな。


 城に着くと大臣自ら出迎えに現れた。

「これはこれはクラディウス様、そしてスワン様、長旅お疲れでしょう。お部屋の方へどうぞ」

 手をたたき侍女を呼び案内を命じた。

 ?なぜ俺の名から声をかけるんだ。

「おいミッチーこれはどういうことだ。俺が主客のような扱いになっているぞ」

 少し口ごもりながらミシェルはこたえた。

「すまんハルト、実は戴冠式の主役はお前なんだ」

「なんだって!どういうことだよ!」

 王が急逝して跡継ぎ問題が起こった。この戦時下、二人いる王子はそれぞれ及び腰で王位にどちらも名乗りを上げない。王妃も同じく自分の息子たちの身を案じ戦争が終わるまで王位継承を先延ばしにしようとしたが、臣下たちの意見で王の血を継ぐ隠し子である俺にお鉢が回ってきたといいだした。

「冗談じゃないぞ。そんなこと受けるわけないじゃないか」

 酔いがすっかり冷めてしまったが、きついスコッチでも呑みたい気分だ。

「すまん、僕の領地の命運も君が握っているんだ。幼馴染というこで説得を任されて失敗するわけにはいかないんだ」

 領地という人質を取られミシェルも悩んだ末のことだった。

「わかったよ。戦争が終われば俺は元の冒険者に戻れるんだな。王位を放棄して顔も知らない兄弟に譲っていいなら受けてやる」

「ありがとうハルト、一生の恩に着るよ」切なくつらそうな顔をしてミシェルは手を握った。俺の親友にこんな目を合わせるなんて、腐った王族たちに無性に腹が立った。そうとなれば一日でも早く戦争を終わらせてやる。

「わーいハルト、王様になるの贅沢し放題ね」はしゃいでくれるな。こっちの身になってくれよタマモ。


 一番のゲストルームに案内された。タマモはその控えの間を割り当てられたが、ベッドほ引きずって俺のベッドの横に置いた。もうどうでもいい気分で怒る気もわかない。

 部屋の風呂で汗を流し着替えて、ミシェルや城の重臣たちと食事をとった。重臣たちはいろいろしゃべりかけるが無愛想な顔で終始無言で飯を食って部屋に戻った。ミシェルには悪いことをした。彼がすべての受け答えを引き受けてくれ明日の段取りを整えてくれた。

 部屋に戻るとそこにあった高そうな酒を瓶から直接呑んでベットにごろりと寝た。

 厄介ごとに巻き込まれた俺は天井を見上げ、それからタマモの顔を見ると流れに任せるかと思っていた。

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