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■地底世界

「オオガミさん、この扉のくぼみにあなたの血を注いでください」

 宝蔵院は扉の模様の一部を指さした。

「ここに並々と入れるのか」

 困惑の表情を浮かべるオオガミに

「いえ、ほんの数滴で結構です」

 オオガミは指先を少しナイフで切ると扉に押し付けた。扉の文様が光り始めて静かに開き始めた。その様子に注意が向いている隙にカグヤがオオガミの指をつかんで沐浴(アブル)を唱え治癒した。オオガミの現状を晴明たちには内緒にしておきたかったからだ。それは白鳥の提案であった。余計な心配をかけることはマイナスの効果しかないと考えたからだ。

 下へと続く階段を晴明と宝蔵院を二人を先頭にオオガミ、白鳥、ヤーシャ、久遠、カグヤの順で進んでいった。

 一歩階段を踏み出すたびに不思議な光景が繰り広げられた。騙し絵のように階段は歪み交差して晴明は下っているのに歪んた空間からは久遠は登っているように見えた。出口に晴明はたどり着くといつの間にか階段を上がっていたのだった。

「あれ、おかしいな?出口が上になっている。いつの間にさかさまになったんだろう」

「それより晴明君、この風景すごいよ」

 見上げている空に太陽が昇っていた。続いて登ってきたのはオオガミと白鳥、

「まるでバローズの地底世界だな」白鳥はため息をついた。

「ペルシダーという世界ですね」

「天鼓君、これって地球空洞説ってやつなの」

 広がる大地は地平線が見えないそのまま空へと壁面がせりあがっているが、中空には光る太陽が輝いていた。

「いやこれは別次元の世界ですね。我々の登ってきた階段によって転送されたのでしょう」

 カグヤが昇ってくると

「教団はアガルタとここを呼んでいるわ」

「『煙の神』か、確かに空の太陽は煙でもやっているな」

「白鳥先生はSFがお好きなんですね」

「恋愛小説家として白鳥で活動しているが別名でサイエンスフィクションを出版しているだよ。『煙の神』は百年以上前にアメリカのウィリス・ジョージ・エマーソンが書いた小説の話なんだが地下世界に迷い込んだノルウェー人船員の不思議な手記の話なんだ」

「面白そうですね。昔にも迷い込んだ人がいて物語が綴られたのかもしれませんね」

 オオガミが辺りを見渡して

「どこから探し出せばいいのか見当もつかんな。晴明どうする」

「なにか晴海の両親が残して行った手がかりがあるはずです。探しましょう」

 地面を当てもなく探し出す晴明たちだが突然久遠が

「あそこに何か建物がありますよ」

 指さす方に木々で覆われた小さな小屋を見つけ出した。

「行ってみるか」

 オオガミを先頭に進み始めた。

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