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●戦乱の始まり

 ベールに来て六年、優雅な冒険者生活をと思っていたが戦況がそれを許さなかった。シーモフサルトの進軍はとうとうエンドワースの国を陥落させた。次はこのユートガルトがターゲットだ。シーモフサルトは第二の故郷ユートを進軍の起点に置いた。今はドメルが進軍を食い止める重要な砦となっている。シーモフサルトもエンドワースとの戦いでかなり疲弊していた。


「ハルト、おなか減ったよ」

 十二歳になったタマモはますます食欲旺盛で育ち盛りだ。体格も同じ人間の少女と比べると六つは年上に見える。立派な大人の少女となっていた。獣人は育ちが早いようだ。

 俺も二十二歳になるオオガミより大きくなっていた。

「水でも飲んでおけ、少しは腹の虫収めにるだろう。このクエスト報酬でパンくらいは買えるから待ってろ」

 戦時下でクエストが減ったうえ報酬も半分以下となっていた。おまけに税金も二倍、冒険者もやってられない。ミッチーに頼るのも悪いので自給自足で家賃だけ負けてもらっている状況だ。エルフのハルナは今年、等々ミッチーと結婚してこの屋敷を出ていった。オオガミと二人のメイド、イソルダ、アルジェは傭兵としてドメルの最前線で戦っている。

 この屋敷は今のところタマモと二人暮らしだ。

()()()()をギルドに収めて、早くパンを買おうよ」

 クエストと言っても昔、俺が考えた温泉施設で使う蛇の目傘張りの内職だ。まるで貧乏浪人だ。情けないが今の生活はこれなのだ。うまいものを腹いっぱい食ったのはミッチーとハルナの結婚式以来、一か月はない。

 ギルドの道すがら、現状打破の策を考えたがなにもない。温泉施設でのアイディアのパテントでも取っておけば、印税収入もあったのだが、この国にパテントの概念はない。とぼやいている間にギルドに着いた。


「クラディウス様、クエストとの報酬です。それとドメルから送金が届いております」

 オオガミたちの傭兵収入が定期的に届く、ギルドを使った送金システムだ。オオガミたちは飯付きの兵舎に住んで金を使わない、ご主人様にけなげに奉仕してくれている。まるでヒモ生活だ。

 ついでにクエスト情報を見る。もう昼前なので大したものはないだろうが一応見てみる。Sランクの依頼金貨四枚!なんでこんなものが残っているんだ。今貼ったような依頼書だが、前金で半分を手渡し達成時に残金もその場払い。要人の王都ガルトまでの警護だって、素早く剥がして受付に向かう。

「これを受けたいが、税金はどうなっているんだ?」

「すでに納税されてそのままが報酬です。お受けになります」

「もちろんだ」

 プラチナのライセンスを渡す。すでにSランクに五年も前に昇格している。

「ではクラディウス様、二時に門前でお待ちください。


「やったーこれで料理屋さんでお酒とご飯が食べれるね」タマモが歓喜の声を上げた。

「そうだな、ひと月ぶりにましな飯でも食うか」

 獣人の成人は十二歳で、母は十三歳には姉を生んだといいタマモは酒を覚えて大はしゃぎだ。タウロマキアというバルへ向かった。労働者の飯屋だ。棚に並んだピンチョスを取り、自分の席まで運ぶ形式の場所だ。ピンチョスとはオープン・サンドイッチ状の食べ物で串で具材とパンを刺して安くてうまい。串の数で勘定をする串カツ屋さんの要領だ。こんなんところも気に入って通っている。


「ハルトまいど!」店の大将が皮肉を言う、こんな安飯屋でさえ仕送りがあった時だけの贅沢だ。

「ビールを二杯頼む」十種類ほど選びタマモとシェアする。色んな種類を食べたい。

「ビールもう一杯と揚げたてのポテトも頼んでいい」

いっきに一杯目のビールを飲み干していた。

「ああ、ビールはそれで終わりだぞ」

「じゃあ次はワイン」ニコニコとビールを飲み干す。俺も負けじとビールを頼む。

 たらふく食って呑んで、銀貨一枚程度、俗にいうセンベロだ。

 屋敷への帰り道、金のある時は本屋による。

「また、本ばっかり買うからお金なくなっちゃうのよ」タマモは本屋が嫌いだ。

「読んでいらなくなった本は売ってるだろ、まあそういうな」

 ヘイ・オン・ワイ書店のドアを開ける。

「ゴラン爺さん、何かいいもの仕入れたかい」

「ハルトかい、これはどうじゃ、一世紀ほど前にかかれた転生に関する魔導書だと思う。安くしとくぞ」

 和綴じの東の島国の本を手に取り少し読んでみる。おっとこれは掘り出し物だ。気になっていたことが書いてある。

「いくらだ」

「銀貨十五枚じゃよ」

「十枚にならないか」

「十二枚で手を打とう」

「わかったよ」

「タウロマキアに十日通えるじゃない!信じられない」タマモがむくれている。

 あれから何年もたつが日本に戻る方法、ハルアキを探す方法など書物を買いあさったり、図書館でも調べた。転生に関する書物は禁書に指定されていることが多くなかなか目当ての物にたどり着けないでいた。


 屋敷に帰り旅支度をした。一人にすると酒浸りになりそうなのでタマモも同行させた。買った本も荷物に詰め込んだ。

 二時少し前に外壁の門で依頼者を待った。


「ちっ!まったく」

 ミシェル・スワンがハルナと現れた。

「あっミッチー、ハルナさんこんにちはどうしたの」タマモは気が付いていない温情の依頼だと。

「頼むよハルト」

「ミッチー、いらん世話焼きは勘弁してくれ」

 まったく手の込んだことをしてくれる。ありがたくて涙を流すとでも思ったか。

「まあいうな、最近は物騒だ。この街一番の腕利きを雇って何が悪い」

 確かに戦時下でそれに乗じて悪さをするものも増えているのは確かだが。

「それで、何でミッチーは王都に呼ばれているんだ」

「王がなくなって王子の戴冠式がひそかに行われる」

 俺の異母兄弟かどんな顔をしているのか見てみたいな。

 馬を二頭、ミッチーの従者が連れてきた。

「もう一頭頼むよタマモも連れて行くから」

「わかったよ、もう一頭用意してくれ」従者に言いつけると金貨二枚を渡してきた。

 ハルナの見送る中王都ガルトへ向かった、馬なら二日の行程だ。


 嵐の前の静けさ、田水沸(たみずわ)く風穏やかな日のことだった。

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