◆オオガミの提案
メラクの宿でオオガミは眠り続けていた。
「かなり弱っているみたいね」
「無理ばっかりして、仕方ない人」
オオガミを見つめてわずかに口元に笑みを浮かべるヤーシャに
「信頼があるのねこの人と」
「そうだな後ろを預けれる数少ない人だとはいえる、彼はどう思っているかわからないが」
「いいわね私にはそんなことを思える相手はいない」
「晴明がそうじゃないのか」
「彼のことがよくわからない、というより考え方が根本から違うのかもしれない」
「オオガミを見ておいてくれ」
というと部屋から出て行ってしまった。カグヤは血のりがべっとりとこびりついた包帯をナイフで切り取り、傷口を拭きとるとピンク色の皮膚が出来上がっていた。
「包帯はもう必要ないわね。元の上着に戻しておいてあげましょう」
ダークグレーのオオガミのお気に入りだったジャケットを作り上げた。
「いいテーラーだな、仕事を間違えたな」
オオガミは薄目を開けてカグヤにそう言った。
「起きたの、具合はどう」
起き上がろうとしたが、まだ腹部の筋肉は再生されていないのであろうごろッと横を向いて
「明日の朝には走れるだろう」
「そんな強がって走るって、列車で移動するのに」
「いやだめだ、やつらは俺かお前を狙っている。巻き添えを作りたくない列車に乗らずにベールまで行こう」
「確かにそうね。戦うにしても誰もいないほうがいいわね」
「ところでカグヤ、俺のことをどこまで知っているんだ」
「ほぼ知らないといっていい、つまり不死の謎のことは」
「そうか、無駄なことを聞いてしまったな」
二人は沈黙したまま時間だけが流れていった。袋を抱えヤーシャが戻ってきた。
「オオガミ、目を覚ましたのか、晩飯を買ってきた」
固そうなパンと干し肉と赤ワインであった。
「目覚めにコーヒーでも飲みたかったんだがな」
ワインを瓶からぐびぐびと呑んで、ヤーシャに渡した。
「向こうに残してきたカバンの中に天のコーヒー豆があるんだがな」
「合流まで我慢か」
仰向いて干し肉を食いちぎって残念そうにした。
簡単な食事を済ませた三人は明日の朝早く出るつもりなのでカグヤはベットへ向かったが、ヤーシャはオオガミのベットへ入っていった。
「おい、何をするつもりだ、離れろよ」
「こんなに体温が下がっているぞ。私の体で温めろ、明日の旅の足手まといにならないように早く直せ」
ヤーシャを退けるほどの体力はまだ戻っていない、あきらめ顔のオオガミは
「くだらないものを構うなんて暇な女だ」
静かな夜の出来事であった。




