◆サマラ歓迎会
ワイルドキャット・ハウスでは歓迎会の準備が進んでいた。タウロは厨房を借りて宴席の料理を作っていたが、山猫軒の味が変わっていないか気になってこっそりと味見をした。異次元牢獄に飛ばされた際に一度その味は知っていたからだ。
「こんな差し出がましいことを言ってはなんだすが、このソースは少し昔の味と違っているだす」
ワイルドキャット・ハウスの料理人は
「いえマニュアル通りに作っているのでそんなはずはないのでは」
タウロは宴会用に作っているソースをその料理人に味見するように勧めた。
「コクと深みが全然ちがう!これは・・・」
タウロはワイルドキャット・ハウスで歓迎会をすると聞いてドメルにあった山猫軒の味で迎えようと目論んでいたのである。
「ベースの材料や作り方は間違えていないだすが、最後の仕上げの詰めが甘いだす」
その料理人に丁寧に仕上げの仕方を伝授した。
「ほうそんなひと手間が必要だったんですね。本部に伝えてマニュアルの改正を願い出ます。ありがとうございました」
「礼を言われるほどのことではないだすよ。それよりこのマスタードは変わらず美味いだすな、この世界ならではの素材で作られているんだすな、あとで分けてもらえると嬉しいだす」
タウロはいつも料理人には優しい。
歓迎会の準備が整いサマラを中心に各自席についているのだが
「天鼓君まだかな」
百花とオオガミはすぐに戻ってきたのだが、宝蔵院がまだラボから戻って来ない。
「先にやっといてくれと言ってたぞ」
厨房からはいい匂いが漂ってきている
「リリ、お腹空いた」
「リリちゃんもお腹減らしてるしハルちゃん先に進めましょ」
「仕方ないね。サマラ」
晴明とサマラが立ち上がり
「これから一緒に旅をするドラゴノイドのサマラです。サマラは温泉と観光の街ベールで知り合いました。ドラゴノイドの王女アースラはヨシュアがエヴァの命で旅に出ろと言ったように、サマラも僕と一緒に旅をすることになりました」
「サマラです、晴明とは運命の糸で結ばれてます。よろしくお願いします」
拍手が鳴り響く、ヨシュアが落胆の表情を浮かべる。
「もうサマラ、簡単に運命なんて言わないで旅を共にすれば何をすべきかきっと新しい発見があるよ」
そこに遅れて宝蔵院がやって来た。
「ごめん、調査に夢中になって遅れてしまいました」
「よかった、乾杯するよ。こんな時は母さん出番だよ」
「よーし任せて、サマラちゃん、ようこそ!乾杯!」
晴明はテーブルの上の料理に夢中であったがヨシュアのことがふと気になった。席を立つとヨシュアの元へ行った。
「僕と席を代わらない」サマラの隣だ。
「いいよ、無理しなくてもサマラは君に夢中なんだもん」
「そんな心構えではいつまでたっても振り向いてもらえないぞ」
「ヤーシャさんでも・・・」
晴明は無理やりヨシュアを立たせて背中を押した。しぶしぶ席を移動するヨシュア、サマラの横に座るがうつ向いたままだ。テーブルを囲むほかの者たちもそれぞれ席を移動して話している。
サマラはじっとヨシュアを見つめた。
「ヨシュアはドラゴモードを使えるのよね。歓迎会が終わったら見せてくれる」
ヨシュアはサマラが興味を持ってくれていることがわかると、鼻が大きく膨らみとさかが逆立ち今にもドラゴン化しそうになっている。
隣にいたタマモはヨシュアに耳打ちする
「いいとこ見せなさいよ。ガンバ」
ポンと背中を叩いてビールを取りに行った。




