▼比較神話学
丸太の筏で川の流れに任せて河口へ向かう中、宝蔵院は疑問を口にした。
「きびつ様、実は私も百年ほど前からこの国にに居りましたが、タカアマーラからの指令はもっと昔からあったに違いないと思うんです」
「それは私も感じていた。白兎との旅の中、われらが作り出した獣人以外の存在、例えばカラスと人の獣人族、不思議な術を使うものたちと遭遇したことがある」
「天狗族だ」
晴明も思わず声を漏らした。
「比較神話学を調べていた時に共通する点があまりに多く、何らかの関係があると考えたんです。おそらく人類史と共にタカアマーラは関与してきたと確信しました。古墳に埋蔵されたユグドラシルの木で作られたオーディーンの馬などテクノロジーを見てもそれしか答えがありません」
「卑弥呼や黄泉津のように大昔から使命を帯びたものたちがいた。何故完成に至らなかったんだ」
「それらの文明が滅んだためなしえなかった。又は妨害されたそれは今の情報ではわかりません。ただ現在の計画も成功しなかったことはわかります」
宝蔵院は口が滑ったと後悔した。
「私たちのやって来たことは無意味だったということか、それもいい」
稷兎は安心した顔をした。
「ところで君たち本当の名目を名乗っていないな。お互い呼びにくいだろう。連携を取るにも戻したらどうだ」
時々漏れ聞こえるお互いの呼び名が気なっていた稷兎だった。
「私はタマモ、そのままでーす。この子は私の息子晴明、そしてこの子は天鼓くん、ハルちゃんと天ちゃんでーす。ちなみに私はナイスバディな大人だよ」
「なんと名前のみならず年齢も詐称していたのか、はっはっは、参った」
稷兎は大笑いした。
「ごめんなさい、本当は目立たないように見ているだけと約束してたんです」
「もしかしたら私のことも別の呼び名があるんじゃないか」
ぎっくり、ばれていた。
「作戦コードネームでオオガミと呼ばせていただいてます」
こうなっては隠し事は厳禁だと宝蔵院も理解したようだ。
「オオガミか、たいそうな名前だが狼と融合された私にはぴったりの名だな。気に言ったその名で呼んでくれ」
「よかった面倒くさい手間が省けたわ、オオガミっちよろしくね」
筏はどんどん川を下る、河口が近いのであろうスピードも遅くなってきた。
「見つからず海までこれたようですね」
「ハルアキ、ここからどうして進む」
「それは母さん、頼んだよ」
筏船の上部を剣で開け放ち顔を乗り出して島の方向を確かめて晴明はタマモに言った。
「任せなさい、島まで私が船頭よ」
サイコキネシスを使い筏を誘導していくタマモであった。
突然筏が大きく揺れ始めた。
「私じゃないよ。何かが海から勢いよくやってくるわ」
緊張が走る、晴明は身を乗り出して警戒すると湖から銛が飛び出してきた。鮫人の襲来だった。




