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〇瑠璃温泉郷

「坊ちゃま用意はできただ。いくだすか」清八、喜六も旅支度を整えて待っている。

 するとドーマが玄関先まで出てきた。

「ハルアキ、これを見ろ」マップのウィンドを開いた。

「ここに奠胡(テンコ)の隠れ家がある。放った呪符が知らせてきた。今はまだ手を出してはいかんぞ避けて向かうがよい」

 今回の旅のルートの少し離れた場所だ。清八、喜六も一緒なので無理をしてはいけない。近くを通るときは警戒しておこう。

 ドーマは巫女二人を召還した。

「茜、葵、ハルアキが無茶をしないよう頼んだぞ」信用がないな。ちゃんと言いつけは守ります。タマモがしゃしゃり出そうな場面だが都を散歩に出ているようだ。こっちのほうが注意が必要な人だよ。幸いなことに今回はお留守番だ。


「じゃあ、いってきまーす」

 往復四日間の行程だ。

「タウロ、オオガミさんの食事はいいとしてタマモさんは困るかな」

「大丈夫だす。カレーをたくさん作っておいてきましたから温めるだけどいいようにしてるだす」

 カレーか食べたかったな。旅行中にお願いしてみよう。

「タウロ、瑠璃(るり)村寄っていこうね」

「いいだすか。ミーノは元気にしてるだすかね」指輪を見つめている。

 ピコーニャは飛んでは疲れたと頭に乗る繰り返しでついてきた。


 瑠璃村へ着くと様子が大きく変わっていた。

 瑠璃温泉郷へようこそ。入口に大きな看板が出ていた。

「ちょっとタウロ見てよ。瑠璃温泉郷だって、どうしたんだろう?」

 村人が僕らに気が付いた。村長が飛んできて、もみ手をしながらニコニコと

「ハルアキ様、ありがとうございます。作っていただいた岩風呂が人気になりまして村に湯治にたくさんのお客さんがいらして村はウハウハです」

 すごい変化だ。温泉はやはりどの時代でも観光の目玉になる。村を案内されると”石窯タウロ焼き屋”なんて店までできている。残していった石窯まで使って商魂たくましい村長さんだ。

 石窯タウロ焼き屋ではミーノさんが働いていた。ピッツアをくるくると回している。

「ミーノ、元気にしてるだか」指輪を打ち合わす。

「おおタウロ、どうだわしも料理人になったぞ。食っていってくれ」

「よろこんでだ。こいつらはわしの弟子で(せい)やん、()ぃ公っていうだ。わしの大親友のミーノだ挨拶するだ」

「清八でございます。勉強させてもらいます」

「喜六です。師匠のお友達ですか。こらまた立派な角をお持ちで」

「立派になったなタウロ、弟子を持つなんて、わしも鼻が高いぞ」

「そなことねえいつものタウロだ。よくここまでピッツアづくりを修行しただ。そうだ新しいソースができたべ、教えるから作ってみ」

 肩に下げた袋からトマトを取り出してソースを作り出した。そして生地に塗り焼いた。「どうだ食ってみろミーノ」

「おっ甘味に酸味が程ええ、これはなんじゃ」

「トマトというだ。お坊ちゃんが見つけてくれただ。タネも持ってきているだでここでも育てればええだ」袋に入ったタネを手渡した。

「何から何までありがとう。勝手にタウロ焼き屋なんて付けたがいいだろ」

「ええだええだ」笑っている。


 そして、今度は味噌を使ったソースで茄子のピッツアを振る舞った。

「うめえ煎餅だなぁ清やん」

「喜ぃ公、ぴっつあというんだぞ」

 清八、喜六も舌鼓だ。

「ところで温泉だけど沸かすのが大変じゃないの」

「あれから噴き出す水がお湯に代わって岩風呂も増設しました」村長が説明してくれた。

「ご飯食べ終わったら今度は温泉を案内してください」

「もちろんよろこんで」


 お風呂は三つも増設していた。一番熱い源泉かけ流しの湯は僕の作ったやつ、そしてそこから三つの岩風呂に湯をまわしているようだ。

 一番熱い湯に先客がいた。

「こんばんは、失礼します」熱っ!よく入れるな。顔を真っ赤にした体格のいい人だ。

「おう今晩は、いい湯だな。評判を聞いて来たかいがあった。体のコリがとれるわ」

「よかったですね。遠くからいらしたんですか」僕は二番目の浴槽に浸かっていた。

「北の海の間人(たいざ)からだ。一週間ほど湯治(とうじ)している」

「僕らはこれから北の海へ向かう途中です」

「それはいい、ホタルイカがよくとれているらしいぞ」

 ゴクリ唾を呑む。いいじゃないタウロに頼んでパスタもいいな。

「いい情報ありがとうございます。食材を求めての旅なんです。ハルアキと言います」

「わしは・・・ツキノワじゃ」

「ツキノワさん、もっといろいろ教えてください」

 すっかり食い物の話となると意気投合するのも早い、あれこれと日本海情報を得た。

「しかしハルアキ殿の身のこなしただものではござらんな。いい師についているとみる」

「いやツキノワさんこそさぞ名のある武人さんでしょ」オーラが違う。

「ふふ、ただの雇われ兵だ。名など捨てた。ではお先に失礼する」

 それからしばらく僕たちは湯につかった。タウロとミーノは一番熱い湯にどれだけは入れるか勝負をしている。タウロも青から赤ら顔になってどちらも赤鬼さんになっていた。


 そして宿で休んだ。


 深夜、ピコーニャが告げる。

<妖魔が近くにいるよ>

 刀を持ち外に出る。

「どのあたり?」

「村を出て少しのところ」


 気配を消し頭に乗ったピコーニャが示すほうへ赴いた。杖を持ったサテュロスがいた。

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