▼キメラ血清
「俺は生きているのか?」
布団から起き上がる稷兎はその部屋に見知らぬ女性がいることに気がついた。
「君は誰だ?」
後ろ向く女性はビックと驚き、振り向くと稷兎の元に擦り寄った。
「稷兎さま、おはようございます」
少し涙ぐみながら笑顔を向けた。
「すまぬ、ここはどこでそして君は誰だ」
頭が少しくらくらするが意識はかなりはっきりとしている。
「私は白兎と申します。ここは稷兎さまのお部屋です。すぐに所長を呼んでまいりますのでお待ちください」
と部屋を出て行った。
目覚める前の最後の記憶は狼が首に噛みつく風景と剣でその狼の腹をえぐったところまでである。首に手を当てるが傷一つなさそうである。不確かな記憶を何度も手繰りながらもう一度寝転がり天井を見つめていると
「やっとお目覚めなされましたか眠り姫様、いや眠り狼調子はどうだ」
「黄泉津、説明してくれ私はどうなったんだ。確か首を食いちぎられていたはずだが」
「一年以上眠っていただけだ」
「そんなにどうしてだ」
さっと立ち上がり少しふらついていたが黄泉津の肩にしがみついた。
「治療したのだがどういうわけか眠り続けていたんだ」
「どう考えても私は死にかけていたはずだぞ、どんな治療を・・・まさか実験体にしたのか」
薄笑いを浮かべた黄泉津は
「失敗作だよ。生命を維持しただけでお前に変化は起こらなかった」
肩から手を振りほどきながらそう答えた。
「しかしそれからの研究には役立った。白兎を生み出すことに成功したからな」
稷兎は白兎に目を向ける。ただの小柄な女性である。
「白兎、見せてやれ」
そう命令された白兎は目を閉じて力を込めるかのようなしぐさをすると獣人化が始まった。真っ白な毛が全身を覆い耳がせりあがり兎のような姿に変化した。
「稷兎、お前の遺伝子情報をもとに人と兎に応用した獣人だ。彼女によって合成に必要な貴重な血清のサンプル第1号だ。血清によっていろんな動物と人のキメラを生み出せることができるようになった。稷兎は実験体の生みの父、0号さんだよ」
「私の体に何をしたんだ」
「お前が捕まえた狼のつがいと融合したが、身体的に変化は起こらなかったが命は繋ぐことはできたようだ。よかったじゃないか」
「命を救ってくれたことには礼を言うが、人の体をオモチャにしやがってどういうつもりだ」
あまりに馬鹿げた事に笑いが込み上げた、我ながら能天気な考え方に違和感があったが
「卑弥呼はどうしたんだ、いるんだろ」
「あいつは別の研究にご執心中さ、俺たちのことはどうでもいいようだ」
「ここにいるのか」
「卑弥呼さまは旅に出ておられます」
白兎が答えた。




