▼事故
「そんな稷兎さんを実験台に、酷い幼馴染たちだね」
宝蔵院は話の腰をまた折って怒りをにじませていた。友人を裏切るような行為を聞きいてもたってもいられなくなったのであろう。
「許してやってくれ、彼らの苦渋の選択だ。この後すぐに私の不注意で瀕死の重傷を負ってしまったんだ」
そして事故の顛末をつづけた。
「まずはこのあたりの動物を使って試作品を作ろう」
「そうね。まだこの機械がうまく作動するかどうか不安だよね」
「わかった俺が外に出て狩りをしてこよう」
といった稷兎に
「少し待って罠を用意するから」
そう卑弥呼は言うと呪符を取り出して加工を始めた。そんな卑弥呼の姿に稷兎は
「どうしてそんなことが・・・そうかそれも一枚岩の力か」
無意味な劣等感を感じると
「これを持っていけ」
黄泉津が刀を放り投げた。それをあわてて受け取る。
「これはどうしたんだ」
「今俺が作った剣だ、切れ味は保証しておく」
またしても自分の無能さに恥ずかしくなる、
「できたわ、この呪符を敵に貼り付けて拘束を唱えれば簡単に捕まえることができるわ」
数枚の呪符を渡されたが
「拘束ってなんだ」
「こう使うのよ」
稷兎の胸に一枚貼り付けた。
「その呪符に指を触れて拘束って唱えなさい」
言われた通りにすると呪符からロープが伸びて稷兎自らをとらえた。
「ふっふ、解除」
卑弥呼が唱えると一枚の呪符へと戻った。
「少し言っておいてからやってくれよ、なるほど便利なものだな、では行ってくる」
外へと飛び出していった。
ここにきて稷兎も自分の体の変化に気が付いた。
「体が軽い、それに五感が鋭くなっている気がする」
試しにジャンプしてみると驚くほどの高さまで跳躍ができた。上機嫌の稷兎
「これはいい、俺はあんな不思議な力よりこちらの方がありがたい。考えるのはあの二人に任せておこう。さて狩りをするとするか」
動物のいる気配を探ると突然走り始めたが物音をたてずにまるで風が吹くように。
「まずは一匹」
というと狼の背後から迫り術符を使い捕縛した。
「一度戻るか」
拘束した狼を肩に担ぎ洞穴へと向かった。
少しでもコンプレックスを拭えてすっかりいい気分になっていたが、それが油断につながった。
追いかけてきたもう一匹の狼をすっかり見逃していたのであった。
気配を感じてふりむいたのだが一呼吸遅かった。喉笛に食い込む狼の牙
刃を突き立てるが相打ちとなった。瀕死状態の稷兎は気を失った。




