▼一枚岩
晴明は女王蟻の遺体を火球で火葬をすると手を合わせて祈った。
「全部話してください、稷兎さん」強い語気であった。
「始まりからしゃべらないといけないようだな」
静かに目を閉じる稷兎に宝蔵院はごくりとつばを飲み込み首を前にせり出した。晴明も身を乗り出した。
「今から百年ほど前のことだ。私と黄泉津そして卑弥呼は同じ村に暮らしていた。ここから遥北の村だ。ある日三人で山に登ると不思議な一枚岩を見つけた。その表面はとてもきれいに磨き上げられ私たちの興味をそそった」
思い出すように稷兎は話始めた。
「やめろ黄泉津、簡単に触れてはいかん、戻れ」
黄泉津はその声を無視して一枚岩に触れた。そのとたん目を見開き硬直してしまった。稷兎はあわててそこから引き離そうと黄泉津の体に抱きつくが同じく固まってしまった。
脅える卑弥呼はどうしたものかとその場に立ちつくしたが、その時一枚岩が輝きだしその表面に不思議な文字が浮かび上がった。その光に吸い寄せられるように卑弥呼も夢遊病患者のようにそれに触れた。
「選ばれしものたちよ。汝らに授けよう」
卑弥呼の口から声が発せられた。そして一枚岩は砂のように崩れ去った。
三人にはそのまま倒れ数日眠り続けたのであった。
最初に目を覚ましたのは稷兎であった。
「おい、二人ともしっかりしろ大丈夫か」
稷兎は二人を揺り動かし続けた。
むくりと卑弥呼が立ち上がると
「では西を目指しましょう」
「グズグズするな稷兎」
黄泉津も起き上がり
あまとぶや
かりのゆくさきしめしけれ
かのちめざしてとぶらう
転送
三人の姿は描き消えた。
「どこに行ったんですか」
こらえきれずに宝蔵院が声をあげた。
「アスカ付近であったかな。我々の胸にはそれぞれこのようなものが刻まれていた」
胸をはだけて稷兎がみせたのは鏡の刺青であった。
「卑弥呼には勾玉、黄泉津には剣の痣ができておったのに気が付いたのはそれからしばらく後のことであったがな」
「天孫降臨・・・」
宝蔵院はつぶやいたが
「天ちゃん話しの腰を折らない!キビっちゃん続けて」
意外なことにタマモが話しに興味を一番示していた。




