〇奠胡の行方
晩御飯は旬の新じゃがと新タマネギを使ったものが並んだ。肉じゃがのお肉は牛肉だ。関西風は牛だ。僕もそのほうがなじみがある。よく煮込んだ肉じゃがもいいけれど新ものならではのそれぞれの食材が立った新肉じゃがもいいものだ。スライスオニオンは鰹節を散らしポン酢味、小さな新じゃがはそのまま揚げてオイルサーディンと和えている。後は豆類の小鉢が並ぶ。淡竹と薄揚げだけの炊き込みご飯も美味しい。
今夜はタマモ、オオガミだけの三人で卓を囲んでいる。
「ゴーレムに歯が立たなかったな。明日は体格差のある敵との戦いを修行してみるか」
「どんなふうにするの?」
「まあ楽しみにしておけ」にやりと笑った。
「あんまり無茶なことしないでよ」タマモが釘をさすが意にも介さない様子だ。ちょっと不安が湧いてきた。
「奠胡は放っておいて大丈夫なの?」
「あいつの様子を見ると体の再生ができていなかった。それより心配は槌熊だ。あいつはどこにいるのだろう」
「槌熊はどんな魔人なの?」
「強さでは圧倒的に二人より勝るがそれほど困ったやつではない」
「結構オオガミはライバル視してるのよ。同じく不死身に近い再生力を持っているしさ、強さもどっこいどっこいなのよ」
「俺のほうが強い!」奠胡や迦樓夜叉は卑劣で嫌なやつだけど槌熊っていいやつなのかな?
「一番将門に忠誠を尽くしていて真面目なのよ」タマモもそう付け加えた。
「ところでその将門はどうしているんだろう」三人の魔人の大将の行方が気になった。
「法師様はある程度掴んでおられるようだが」オオガミもわからないようだ。
「あいつらの話はやめて美味しくご飯食べよ。ハルちゃん」
「そうだね。ピコーニャも今日はよく働いてくれたからいっぱい食べるんだよ」
「ピコ」
「そうね、でもどうしてドーマちゃんの居場所わかったのかしら?」
「僕とドーマの縁の糸が見えるんだって、それを伝って応援を呼びに行ってくれたんだ」
「へー便利ね。そういえば今日倒した妖魔の魔石を一生懸命食べてたわよね。他にも何かできるのかしら?」
「ピコーニャ、そんなの食べて大丈夫なの?」
<うん、もっといっぱい食べれば大きくなれるんだよ>
「へー魔石をいっぱい食べると大きくなれるんだって」
「ハルちゃんがいっぱい敵を倒すとピコちゃん大きくなれるね。面白いじゃない」
楽しみができた。
「ごちそうさま」食器を厨房に返しに行った。
「坊ちゃん、今度修行の休みができたら、喜ぃ公、清やんと一緒に食材の仕入れに丹後の国を越えて海までいけねえか法師様にお願いしてもらっていいだかや」おっと楽しい提案だ。
「わかったよお願いしてみるから、早いほうがいいよね」
「ここ導魔坊へ清盛さまが大事なお客様を月末にお招きされるのでそれまでにお願いしたいだ」
いい口実ができた。それならすぐにでもOKがもらえそうだ。
さっそくドーマさんにお願いだ。ピコーニャに聞くと錬金部屋にドーマはいるようだ。
「ドーマさん、タウロからのお願いなんだけど日本海まで食材の仕入れ手伝ってもいい」
「清盛殿の晩餐会の件だな。いいぞ。ただし明日オオガミの修業が終わってから出発するのだ」
修行が終わってからか。まあ早く終わらせてお昼過ぎに出れるよう頑張ろう。目標ができた。
「ありがとうございます。ではおやすみなさい」
明日が楽しみだ。
三上ヶ嶽山荘
「クッソ!オオガミのやつにタマモまで、それにあのドーマハルトに似た小僧!邪魔ものだらけだ」あたりの物に当たり散らして「サテュロス!」
「はい、奠胡様、およびですか」
「おぬしが槌熊を間人から連れてこなかったせいでえらい目にあったぞ」
杖でサテュロスを殴る。
「ひえーおゆるしを」
「まあ良い、少しはうさが晴れた。今度はお前がオーガを召還して連れてこい!この杖を貸してやる。これで地脈を探るのじゃ」
「まったく人使いの荒い方だ。わしもあいつらが怖いのに」とぼとぼと闇夜に消えていった。
一枚の呪符が部屋に落ちていた。それはネズミへと変化し同じく闇夜に消えていった。
「お願いします」修行の始まりだ。
「この魔石に魔法力を注げ」
地面に一個の魔石を放り投げた。魔石を手で地面に伏せ言われた通り魔力を注ぐと昨日のゴーレムがあらわれた。
「うわ!」飛び退いた。
「どうだ法師様からゴーレムの魔石をお預かりした。今日の練習相手だ。魔法を使わず剣のみで相手しろ」
飛び上がって頭部を狙うがガードが堅い。何度かトライするがこれといったダメージを与えていない。
「飛んでばっかりいないで頭を使え」
そんなこと言われても届かないじゃん。そうか届くようにするのか。
ゴーレムの足を攻撃目標に変えた。何度かの攻撃で足を一本切断した。こうなると後は簡単、ゴーレムをもとの魔石に帰した。
「そうだ、おのれの小さな体を生かしたいい戦法だ。もう一回、魔石を取って魔法力を込めなおすのだ」もう一度闘えということか。
魔石を拾おうとしたとき、ピコーニャに食べられてしまった。
「オオガミさんごめんなさい食べられちゃった」
「仕方がない、いつもの組み手をするか」
ピコーニャが光り始めた。
「どうしたのピコーニャ!」
二回りほど大きくなった。しかし太ったままだ。これでは肩にのせられない。飛び上がると僕の頭の上に座った。たいして重くないのでかまわないが暑苦しい。
「これ以上大きくなったら頭の上はやめてね」
「わかったよ」
!ほかの人にも聞こえる声を出した。
「驚いたな他の人にもしゃべれるようになったね」
<ハルアキにしか聞こえないようにもしゃべれるよ>
それは便利だ。内緒話につかえる。
昼まではオオガミと組み手をしたが、いつもながら先の見切りが使えないほど変幻自在の剣法だ。
「今日はここまで、タウロと出かけるのだろ」
「ありがとうございました」
そうそう日本海へとグルメ旅だ。




