▼牛人族
「稷兎、ご苦労である。ゆっくり休みがいい」
出迎えた男がそう言った。その男の姿に晴明は驚いたのであった。
「晴ちゃん!タウちゃんにそっくり」
タマモも驚いて晴明に言ったのだが体の色こそ濃い茶色ではあったが角が生え牛の顔をしていたのであった。
「周りを見てください。ほらあそこにも。牛人族のようですね。向こうの世界ではタウロさん以外に会ったことはないのですがこの時代にはかなりの人数がいるようですね」
「驚いたようだね。彼も実験体の一人だ。人族と牛のキマイラなんだ。須佐という名前だ」
「何を実験しているのですか?きびつひこ様」
「阿礼はいつも質問ばかりだな。生命力の強化といったところか。目的は言えんがそんなとこだ」
宝蔵院はそれ以上の質問はしなかったがしきりに肯いていた。
「天鼓君、なんか納得したような顔をしているけどどうしたの」
「いや異世界いった時に見た獣人族や妖怪たちを見てある仮説をたてていたんです。自然界に発生したとは思えていなかったからですよ。何者かによって創造されたんではと、実に興味深い事実を見せていただきましたよ」
「ときに稷兎、そこの従者たちは何者だ。漏れ聞こえてくるのはタカアマーラの言葉のようだが」
「俺にもよくわからん理由があるようだが危険なものたちではない。念のためにそばに置いているのだ」
「卑弥呼は許しているのか」
「実は内緒にしている。おまえも口裏を合わせてくれないか」
「いいだろうあんたのたっての願いだ。心得ておく。でお前たち名は」
「わたくしは阿礼、こちらがヤクモとタマモです」
「ああ、おぬしが阿礼かミヤマのものが来た時に噂をして居ったな。かなり博学のようだな」
「それほどではございません。買い被られては困り。ただのジジです」
「稷兎よ。忘れずにあれは持ってきたんだろうな」
「須佐もちろんだ、阿礼、あれを渡すがいい」
宝蔵院は旅に出る前にオオガミから荷物を預けられていた。
それを受け取り箱を開けると注射器が何本も並んでいた。
「これは何の薬でしょうか」
宝蔵院が思わず質問をしてしまった。
「よくこれが薬だとわかったな。その通り、見て見ろ」
一本の注射器を取り出し自らの腕に打った。
みるまに須佐の体が変化していき、人間へと変貌した。
「この通りだ。出雲の者たちが警戒せぬよう擬態する薬品だ」
「元に戻る薬もあるのですか」
「それはない、この薬品は牛族の力を拘束しているだけだ。念ずれば元の姿に簡単に戻ることができるのだ」
頷く宝蔵院であった。




