▼豊穣の秘儀
晴明は宝蔵院の百年の旅話を聞きながら、そんなに古代史好きでもない晴明ではあったがそれは実に興味深い出来事の数々だった。そんな話を聞くうちにあっという間に時間は過ぎていったのであった。
「それで今夜卑弥呼が豊穣の舞を踊るんだね。ワクワクするね」
「彼女の呪力で植えた苗に活力を与えるんだよ」
「僕の使っている豊饒の呪文みたいなものかな」
晴明は平安にいた頃、トマトを育てるためにつかった呪文であるが
「護摩を焚くのですがその灰に呪力を込めて害虫や疫病などから苗を守るそうなんです」
「それってナノマシンみたいなことを灰に付与するってこと」
「そうなんです。例の血液に通じるところがあるみたいです。じつに興味深い」
「彼女がどうしてその力が使えるようになったかはわかっているの」
「謎だらけなんですよ彼女に関しては、十数年前に小さな集落に突然現れてあれよあれよという間に国家を作り上げたのです。噂を聞いて僕はこの村に住み始めたのですがなかなかその秘密が暴けなくて晴明君と協力して調べようと待っていたんです」
「その話乗った!面白そうだ。オオガミさんはどんな役割を持っているの」
「卑弥呼が現れて少ししてやってきたみたいで稷兎と卑弥呼は呼んでいるけど村の人たちはきびつひこ様って言っている。彼は弟って言われているけどどうも違うんじゃないかと僕は思っているんだ」
「ふーん、ほんと謎だらけさね。どうやって調べるつもりなの」
「この豊穣の儀式が終わればしばらくしてイズモに従軍に出るんだ。イズモの国と戦いが始まる。その遠征にオオガミ氏も加わるのでお付きとして君と僕とでまずは彼のことを調べるのさ」
「ふっふっ面白そうだね。スパイするんだね」
「さあ儀式が始まる、行こう」
みやまの村の中央には儀式用に広場が設けてあった。すでに数百人の村人が集って静かに胡麻の炎を拝んでした。
「こんなに村人がいるの驚いたな」
「小さな声でお願いします。神聖な儀式ですから」
黙って時を待つ二人、そして護衛を伴い卑弥呼が現れた。
「あっ」思わず声をあげる晴明だがトーンを押さえて
「本当にあれが卑弥呼なの!!?」
「そうカグヤにそっくりでしょ、それにあの後ろにいる男が稷兎よく見て確かめてください」
晴明はその男をじっくりと眺め首を傾げた・
「あれがオオガミさん」
「よく見てください、晴明君ならわかると思うんですけど」
再び、今度はさらによく見た。
「あああっ!朔の時のオオガミさんだ」また声が大きくなった。
「やっぱりそうでしたか。僕は見たことがないので今まで確証が得れなかったんです。なにげないうごきやしぐさから、彼がオオガミ氏だと推測していたんです」
そして儀式が厳かに執り行われていった。




