◆飛んだお茶会始め
頭らから湯気を立てながら晴明が晴海の母に聞く
「カグヤどこにいるの」
「茶室じゃないかしら、落ち着きたいとか言ってたから」
「茶室?天鼓君そんなものまであるのこの船、でどっち」
「上のフロアなんですここから三階へ」
複雑な船内をすべて把握している設計をしたのだから当たり前だ。
最上部の三階は日本庭園になっており質素な草庵様式の庵が建ててあった。
「もしかしてこれも父さんのリクエスト、無理なお願いだよね」
「いえこれは僕のアイディアですよ、織部流を研究しているんです。向こうの世界では茶道具のコレクターでもあるんで趣味の世界です」
「へえ風流だね。そんな趣味があるなんて母さんがお茶は習ってたけど僕は作法なんて全然わかんないよ」
「そんなに肩を張らなくても自然の行いで十分ですよ。入りますよ」
小さな入口、躙口を潜ってい行く。
「あら晴ちゃんも点茶を嗜みに来たの、カグヤちゃん二人のお点前をよろしくね」
タマモの姿から着物姿の陽子に扮していた。
「晴明君、僕が上座に座るから真似をして」
カグヤが無言でお茶を点て始めた。タマモがそれを宝蔵院の前においてお辞儀をした。
宝蔵院もお辞儀をして
「お先に失礼」と晴明に会釈をした。そして右手で時計回りに2回ほどお茶碗を回し先ず一口飲み、その後はゆっくりと最後まで飲み干、最後の一口は「ずっ」と音を立てた。親指で飲み口を軽く拭きそして、飲む前と逆の方向に右手でお茶碗を回した。
タマモがお茶碗を取り今度は晴明の番になった。見よう見まねで同じ動作を繰り返してみたが誰もいない隣に「お先に失礼いたします」とは余計であった。
「私にないか聞きに来たんじゃないの」カグヤがやっと口を開いた。
「率直にうかがわせてもらいますが百花さんの血液について何か知ってますよね」
宝蔵院はストレートに質問した。
「ええ知っているわ、あれはオオガミやだぶあの血液を真似てベルゼブブが作り出したものです」
カグヤは素直に答えた。
「そのナノマシンの停止方法も知っているんでしょ」
「晴明、それは知らない、そんなことを考えたこともなかった。逆に問うにできるのかそんなことが」
二人が入浴しながら話し合った結論はカグヤの予想を超えるものだったようだ。
「理論上はできるかと想定しました、ただ研究するにもなぜその血液がどのように作られたかを知る必要があるんです」
「オオガミが何か記憶していれいいのだが、彼の記憶を探る必要がある」
「オオガミさんの過去を調べるの、だって何も覚えてないんだよ。どうして不死になってしまったのかを、呪いの原因もわからないだよ」
「調べるすべはあるのだが晴明覚悟はあるか」
「覚悟?僕が何かするの」
「失敗することもあるやもしれん、あなたの覚悟次第だ」
「晴海の為だ、やるよ。教えて」
晴明はカグヤの手をぎゅっと握った。
「カグヤちゃん、危険があるってどういうことそんなことに晴ちゃんを巻込まないで」
「母さん、心配しないで僕なら必ず無事で戻ってくるよ」
和菓子を運んできたタマモはそれを落とすかの勢いだった。その一つを晴明はつまみ取り口へ運んだ。
「美味しい」
「そりゃタウちゃんが作ってくれたんだもん、それよりカグヤちゃんどんなことをしようというの」
「彼にはまた時をさかのぼってもらうわ」
「父さんがやった秘術のこと」
「今度は日本の約千六百年前に飛んでもらうことになる」
「空白の四世紀という時代ですか。興味深い」
宝蔵院は興味を抱いたようだ。
「でも前に平安に飛んだ時は体を導魔さんが用意してたんだよ。それはどうするの」
「オーディンの馬を使う」
「えっどうやって運ぶの」
「運びはしない向こうにあるものを使う。古墳に埋葬されていたものを使う」
「もしかして宮内庁から調査を許可されていない古墳にはそんなもの埋葬されているということですか」
宝蔵院は興奮しながら話を聞いていた。
「盗掘を免れていればな、そのほかにもいろいろと埋葬品の中には役に立つものがあるだろう」
「そんな昔に飛んで戻って来れるの晴ちゃんは」
「その方法は知っているだろ晴明」
「わかってるよ。平安から元に戻った術を使えばいいんでしょ」
「カグヤさん、オーディンの馬は一体しかないんですか」
「いや何体かあるだろうそれぞれの土地に」
「じゃあ僕も飛ばしてください。こんな機会を逃す考古学者はいませんから」
「天鼓君が来るなら心強いよ」
「任せてよ晴明君、友達だろ」
二人はハイタッチで握手した。
「それではさっそく術を執り行うとしよう」
日本庭園に出ると魔法陣を描き出したカグヤ、それを熱心に頷きながら観察する宝蔵院、船内に作られた庭園なのに、風が渦巻きふき始めた。
「晴明君、僕が最初に行くからね」
「どんなことが待ち受けているかわからないだよ。僕からだよ」
「じゃんけんで決めよう晴明君、一回勝負だ」
じゃんけんは宝蔵院が勝った。
「仕方ないな、気を付けてね」
宝蔵院はカグヤの耳元で何かをつぶやいて魔法陣の中心に座った。
カグヤは呪文を唱え始めたが晴明にはわからないことであった。魔法陣は輝き始め地面から浮き上がり弾けるように飛んだ。宝蔵院は倒れ込んでいた。
「天鼓君!!」
駆け寄る晴明は魔法陣からその体を運び出した。
「うまく言ったのカグヤ」
「あゝ、成功したようだ。さあ晴明も魔法陣に」
母の顔をにっこり見つめて位置についた。
「そうだ!大事なことを聞き忘れていた。向こうへ着いたらどこへ行けばいいの」
「邪馬台国、卑弥呼を訪ねろ」
呪文の詠唱が始まり晴明も地面に倒れ込んだ。




