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●ベールの領主

 まだ日の暮れる前に到着できた。久しぶりの大きな街だ。西の大交易都市ベール、ドメルより活気あふれ人々が躍動するすばらしい街だ。


「さて、ギルドへいってマンティコアの報告だ」門番に街の要所は聞いてある。

 ベールの冒険者ギルドはすぐに分かった。大きな建物でこれもまたゴシック調の古い建築だった。

「すまない、クエストの報告だ。ドメルで受注した」ライセンスと魔法陣からマンティコアを取り出した。

「クラディウス様、確かに確認いたしました。係の者が片付けさせていただきますが、三体のマンティコアはお売りになりますか?」

「ああ、頼む」

「こちらでしばらくお待ちください」

 待つ間、依頼の掲示板を眺めていた。夕方だが頻繁に更新されているようだ。たくさんの依頼がある。これなら冒険者として食うのに困ることはなさそうだ。ベールを選んで正解だ。

「クラディウス様、査定が終わりました」受付嬢が呼んでいる。

「依頼達成、金貨二枚、三体分の魔獣の売価は銀貨四十八枚ですがよろしいですか」四十万円の稼ぎか一家四人暮らしていけるな。

「ああOKだ。清算してくれ」金を受け取り数えてみると少し足りない。

「おい、少ないぞ」

「一割は税金でこの街に収めることになっております」しっかりしてるなここの領主様は取り過ぎじゃないか。

「わかったよ。年末調整はあるのか」

「年末調整?なんのことでしょう?」そこまで税収システムは細かく決まっていないのかおおざっぱだな。

「じゃあ、みんな俺の友達のところへ行くか」

 街の中心地の一番大きな屋敷の前に立った。

「ハルト、大きな屋敷だな。本当に友達の家なのか」オオガミも驚いている。

「ハルナさんも人探ししたいんだろ。ご領主さまに聞くのが手っ取り早いだろ」

 門番に告げると、大変かしこまって大急ぎでもどり、再び現れて

「クラディウス様、どうぞお入りください」

 馬車は係の者が馬小屋へと連れて行ってくれた。

 屋敷の中では接見の間に通され、お茶ととお菓子が振る舞われた。

「お前たちも座っていいぞ。お茶をいただこう」アールグレイか相変わらずだな。タマモはケーキを一口で食べてしまい、俺のケーキを見つめている。

「食べていいぞタマモ」オオガミやほかの三人からも分けてもらい。ご満悦だ。

 そしてご領主さまの登場だ。


「ハルト!」

「ミッチー」

 抱き合って再会を喜んだ。

「というわけだ。ユートガルト学園時代からの大親友のミッチーだ」

 ハルナさんが目を見開いて驚いている。

「ミシェル様、ご領主さまだったのですか」尋ね人来たりか。

「驚いたな。ハルナさんの思い人がミッチーだとは」

「そんな思い人なんて」恥ずかしそうにうつむいた。

「ゴホン、領主のミシェル・スワンだ。よくぞ訪ねてきてくれた」ミッチーもまんざらではなさそうだ。少し赤くなっている。

「俺の執事オオガミとメイドのイソルダ、アルジェ、わけあって連れ沿っているタマモだ。俺の妹と思ってもらっていい」

 オオガミ、イソルダ、アルジェは立ち上がり後ろに控えた。タマモは口の周りにケーキをつけてポカンとしている。


「ユートの件聞いたぞ。おまえなら無事だと思っていたが、どうだった」

「ああ、何とかこの三人の助けで難なく逃れられた。おまけがついたが」笑いながら答えた。

「ここベールに住むつもりで来たんだろ。屋敷は手配するから安心してくれ」

「ハルナさんも俺たちと暮らすか、どうせそのつもりで来たんだろ」押しかけ女房のつもりだろう思った。

「そんな、えーと、あのーそのー」もぞもぞと恥じらんでいる。

「よし決まりだ。ミッチーもよろしくな」

「まったく強引なやつだな。今日はここに泊まってくれ客間を用意する。これから食事の用意をするのでしばらく部屋で待ってくれ」


「ちょっと待ってくれ、あるんだろあれ」

「あーハルトの設計したあれだな。屋敷の中庭に作ったぞ」ミッチーは笑って答えた。

「ありがとう!まずはそれからだ。部屋に行って用意をするから案内してくれ」


 部屋は四つ用意された。俺とタマモ、ハルナ、オオガミ、イソルダとアルジェだ。

 タマモはイソルダたちの部屋に預けようと思ったが俺と一緒がいいと駄々をこねたので仕方ない。

 部屋には綿紅梅(めんこうばい)鶯色(うぐいす)の浴衣が用意されていた。ちゃんと言っておいたことを実行してくれている。タマモには(あかね)色、子供のサイズまでそろえている。

 久しぶりの浴衣、身が引き締まる思いだ。キュと帯を締める。タマモの浴衣を着つけるとオオガミに必ず来るように釘をさす。女性たちは屋敷の使用人に着付けを頼んだ。

「おーいハルト準備はできたか」ミッチーが呼んでいる。

 女性陣は古代紫(こだいむらさき)の粋な浴衣姿で廊下に登場した。

「何があるのですか、ハルト様」ハルナの浴衣姿にしばし見とれたが「来ればわかるよ」

 中庭まで来ると湯気が上がっている。そう、露天風呂だ。男湯と女湯を簡単な仕切りで分けられてある。岩風呂にライオンの口からお湯が沸きだしている。

「完璧だよ。ミッチー、ここまでとは思わなかった」

「手紙で指示しておいたんだ。ハルトが来るまでに完成させておかないと、しかしいいもんだな。この露天風呂というやつは」

「浴衣までここまで再現できているとは驚きさ」

「メイド長が東の島国生まれで、着物というもの知っていて話が早かった」

「子供用まであるとは感心した」

「この浴衣はすでに街では人気のファッションになっている。儲けさせてもらっている」

「しっかりしてるな、ギルドの税金と言いお前さんの領主の手腕には舌を巻くよ」

「はっはっは、これからもハルトの智慧に期待してるぞ」


「しかし、ハルナさんとのこと驚いたぞ。うまいことやったな」

「学園からベールまで戻る途中、湖でハルナの水浴びをたまたま見て、あまりの美しさにあとをつけたら、あのありさまだ。夢中で戦ったよ」

 俺もハルナの裸体を見てしまったことは黙っておこう。夢中になることもわかる。

「はるとー」女湯からタマモが泳いできた。

「こら、向こうでお姉ちゃんたちと入りなさい」しかし言うことを聞く子ではない。

「このこは?」ミッチーにあらかたの事情を説明した。

「そうか、その年でお父さんだな。はっはっは」実はもう一人いるがな。

 無色透明のお湯だが、鑑定のスキルを使うと泉質は成分にナトリウムが多く含まれている。重曹泉だった。女性の美容にうってつけの美人の湯だ。

「ミッチーここのお湯は、角質化した皮膚をなめらかにして、お肌がスベスベになるぞ。美人の湯とでも名付ければいいぞ」

「それはいい、いただきだ。貴族の女性も喜んで入浴に来る」

「ここを開放するのか?」

「貿易都市であるとと同時に観光立国だ。別の場所で大きな温泉施設を建築中だ。浴衣も大量に用意している」

「はっはっは、いやいや恐れ入るよ」

「さあ、そろそろ食事をするか。ベールは海の幸から山の幸まで美食の都だ。堪能してくれ」

「それも待ってたんだ」幸せだ。

 さてさて、ユートガルト篇はいかがでした。タマモとの出逢いと、ジンとインに似たメイドたちお話は、これから冒険の日々が続きます。シーモフサルトの動きにも、要注意ですが平安時代へ次回参りましょう。

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