◆ドメルの休日
劇場のチケットは運よく空きがあったようで後ろの立見席ではあったが仲良く並んでハルト座の怪人を観劇した。晴明が思わず笑ってしまったのは怪人姿がオーディンの馬にそっくりで仮面は陰陽の仮面であったことだ。この劇場だけのキャスティングだろうかヒロインを妖狐族が演じていた。屈折した愛の姿を描く感動的なものでサマラはずっと泣きながら晴明の手を握り締めて劇に集中していた。
そのかわいい横顔を見つめる晴明は舞台よりも気になっていた。晴海やカグヤとは違った魅力を感じてしまってサマラに気が多いと思われていることは本当なのかと自問自答していた。
「どうしたの泣いているところじっと見られるとちょっと恥ずかしわ」
「ごめんなんでもないんだ」
照れくさそうに舞台の方を向いた。その姿をじっと見つめるサマラの顔が赤らんだ。
スタンディングオベーションの中、舞台では俳優たちが幕前に揃っている。
サマラも手がちぎれんばかりの拍手である。
「あー楽しかった。前に見た時とは違う思いが湧いてきたのは晴明と一緒に見たせいかしら」
手を握ったままサマラは晴明を見つめていった。瞳孔が開きうっとりした表情に晴明はドキドキしてしまった。
「お姫様、そんなところに行ってはいけません。お勉強の先生がお待ちですよ」
サマラのベールでの日常はこんな調子であった。いつもお付きが誰かいて姫としての日常を管理されていた。
「もう、勝手に抜け出して劇なんか見てお勉強の時間がもったいないでしょ」
「ジャスミン!うるさい、ほっといて」
かんしゃくを起こすことも多々あった。
「アースラ母様、私だけなんでこんなことしないとだめなの」
「何も考えずに時を待ちなさい。あなたはあなたのすべきことをするだけなのよ」
母からも何も教えられず悶々と日々を送っていたのであった。
「もう嫌こんな生活!あの滝に行って水浴びしよう」
御付きの目をかいくぐり抜け出したサマラは晴明と出逢うのであった。




