●鵺
ドゥーベ村へとドメルを離れた。ハルナが馬の手綱を握りあとは徒歩で向かう。荷物はアルジェのリュックがあることだしタマモがいないなら馬車は必要なかったな。折を見て売ることにしよう。何事もなく順調に進んだので三時間ほどでドゥーベ村まで二時間ほどまで近づいた。
「ハルナさん、馬の手綱代わろうかイソルダ頼むぞ」手綱さばきも疲れるものだ。
「飯の休憩も取ろう」ちょうどいい水場もあった。
「アルジェ、馬車から昼飯の準備を下ろしてくれ」
「ハルト様!」
「どうした。何か忘れものをしてきたか」馬車をのぞき込む。毛布の下にタマモが隠れていた。
「タマモ!どうしてヘルマおばさんのところにいなかったんだ」抱きあげ馬車から降ろす。
「タマモ、ハルトと一緒がいい」しっかりとしがみついて離さない。
「困ったやつだな。こんなにドメルから離れてしまっては仕方ない。ヘルマおばさんには手紙を書いておくから、大人しく付いてくるんだぞ」少しホッとする俺がいる。
「タマモお腹ちゅいた」
「はいはい、これから食事だ」満身の笑みが浮かぶ、これでよかったかもしれない運命だな。
ドゥーベ村に着き村長と話をする。西の森にマンティコアが三日ほど前から住み着いたとのことだ。もうすでに二人の村人が被害を受けている。
「さっそく討伐に向かいます。オオガミ、アルジェ行くぞ」
「タマモもいく」
「だ・め・だ!イソルダといるんだ。ハルナさんも子守お願いします」
「いってらっしゃいませ」
「あっそれと読み書きと算数をタマモに教えといてくれ」ヘルマから預かった責任ができた。しっかり育てていかないとまずは教養だ。
村から四キロほどの静かな森を奥深く探索する。木の葉の間から日の光が漏れてくる。
遠くから地鳴りのような音がする。やがて前方からシカ、イノシシ、ウサギなど森の獣がこちらに向かってくる。マンティコアに追われているのか逃げているのか、我々には目もくれず過ぎ去っていく、獣をよけながら前に進む目的の獲物は近しいこの先だ。
「オオガミ、マンティコアは手ごわいか」
「いやハルトならさほど苦もないだろうが、キマイラだそれぞれにとどめを刺しておかないとやっかいだぞ」
川原にでた。マンティコアが水を飲んでいる。こちらには気が付いていない。
「よし、俺一人でやってみる。手出し無用」勝手にランクアップされたらたまらない。自分の力でランクアップした実感が欲しい。
加速、身体強化で武装しクラウドソードで切りつける。が素早くかわされた、思ったより俊敏だが、顔に一筋刃が通った。血が目に入ると咆哮を上げこちらに向かってきた。牙をむき爪を掻き立て襲ってくるが見切った。最期の攻撃を仕掛けようとしたとき、新たに二匹のマンティコアが現れた。
「三匹になると報酬三倍かな」
「いえ、依頼はマンティコアの討伐、数は表記されてませんでしたの無理と思います」アルジェが悲しいこと言ってくれる。
「まあ、成果品が三匹になるからそれで儲けるか。俺たちも参戦するぞ。いいなハルト」
「ああ、頼んだ」
「そうそう、タマモちゃんうまく書けたわね」”たまも”とタマモが鉛筆で書いた。
「それがタマモちゃんのなまえよ」ハルナが字を教えている。
「ハルトってどう書くの?」こんどは”はると”とまねる。
「みんなの名まえをかくぅ」一生懸命何度も何度も書き続けている。
「ハルナ様は子供を教えるのがお上手ですね」
「ええ、里では教師をしていました」
「それですか」
「この次は算数を教えましょう」タマモたちはなかよくハルトたちの帰りを待った。
オオガミがハルトをおぶって戻ってきた。
「どうされました。ハルト様!」
「油断したよ。三匹倒したんだが、尻尾が生きていて噛まれた」マンティコアのしっぽは猛毒の蛇だ。特殊な解毒剤が必要だそうだがこんな小さな村にはないだろう。
「毒は吸い出したがまだ残っている」オオガミが悔しそうに口を結んだ。
「私の解毒の術も聞かないのです」アルジェも苦悶の表情だ。
顔色が真っ青だ、そのままハルトは気絶をした。
「ハルトー死んじゃいやーだ」タマモが泣いて抱き着いた。