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◆ハルト市国

 突然の襲撃に晴明は、サマラの警護に抜かりなく万全の体制であったが、慣れぬ役割の重圧で無口になっていた。食堂車で朝ご飯を食べる二人、

「マサラといると退屈なのハルアキ、つまんなさそうにして、全然しゃべってくれないよ」

 しまったと思った。サマラに気が付かれてしまった。ボディーガード失格だ。

「そんなことないよ。楽しい列車の旅だよ」と言った晴明の目に食堂車のピアノが目に入った。

「そうだ、ちょっと待ってね」

 ピアノの前に座った晴明はショパンのノクターン二番を奏で始めた。

 サマラは晴明の所まで歩み寄りピアノに肘をついて聞き入っている。


 演奏が終わると食堂車の中で拍手が起こった。

「素敵なメロディー、本当に何でもできちゃうのね晴明は、この曲はなんていうのかしら」

「母さんも大好きなショパンのノクターンの二番だよ」

「えっパーンとノックダウンですって、サマラもKOよ」

 思わず笑いだす晴明

「母さんとおんなじこと言ってら、()()()()()()()()()()、夜想曲だよサマラ」

 二人は声を出して笑い合った。

「ねえもっと弾いてくれない」

 食堂車の観客たちも拍手をする。

「歌おうか、サマラも一緒に」晴明はタマモの曲を弾いて歌いだした。もちろん父さんとご飯の唄だ。

 観客たちも巻き込み大合唱が始まった。


「あー楽しかった」水を飲む晴明

「この歌も素敵」

「母さんが作詞作曲したなんだ」

 乗客の一人が二人のテーブルにやって来た。

「私こういうものです。ぜひわがホールで演奏会をなさってもらえませんか。そちらのお嬢さんも歌声が素晴らしい、ぜひ」

 とハルト劇場総支配人と書かれた名刺を渡された。

「私歌手デビューできるの最高、晴明やっちゃいましょうよ」

 サマラはノリノリである。

「ごめんなさい支配人さん、旅の途中でまだやることがいっぱいあるんです」

 断りを入れたが支配人は

「それではご用事がお済になってから出結構ですのよろしくと」

 そう言って去っていった。

 サマラはその名刺をプラチナチケットかのようにしまい込んだ。

「約束よいつか必ず演奏会しましょう」

 満足げに笑みを浮かべて鼻歌を歌っていた。


 部屋に戻ってもサマラは晴明に演奏をねだっていた。しかたなくアイテムボックスからか紙鍵盤を取りだして、サマラに歌を教えたりサマラの知っている歌を聞いて二人で時を過ごした。

 お昼ご飯を食べても午後からも同じように時間を過ごしていた。


「サマラの唄声素敵だね。ヨシュアにも聞かせたいな」

「ヨシュアなんてどうでもいいわ、晴明とずっとこうしていられたらいいわ」

 まずいことになってきた。

 車内放送が流れた。

「間もなく、ハルトの街、ハルトの街、停車時間は二時間です」

 貨物の積み下ろし作業でもあるのだろうか、少し長い停車時間である。

「もうすぐ着くわね、私、行きたいところがあるの付き合ってね」

「もちろんだよで、どんなところへ行くの」

「私と同じ立候補者の所」

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