◆駅弁タイム
サマラは一人黙って窓の外を眺めていた。晴明はかける言葉が見当たらないが思い切って
「そろそろお弁当食べない」
「あんまり食欲なくなちゃったから」
「そんなこと言わずに楽しく食べなくっちゃ、そもそも列車の中で食べる駅弁ってのは今から130年くらい前からあるんだよ。もっともおにぎりと沢庵だけの簡単なものなんだけどね。そうそう僕の友達に料理がとっても上手なタウロっていう料理人がいるんだけど、おにぎりと沢庵が美味しいんだよ。今は無理だけどぜひサマラにも食べてもらいたいな」
メダルはあるが肝心のオーディンの馬がここにはないのであった。
「へえ、いっぱいお友達がいるんだね、晴明には」
「紹介するよ、みんなに逢えたら、でも晴海って子が敵に連れ去られて助けに行かなくちゃいけないんだけどね」
「晴明の彼女なの」
「とっても仲のいい女の子かな。付き合い始めてまだ少しなんだけど」一瞬考えて答えた。
「ふーん、どのお弁当から食べる」だいぶ気が紛れてきたようだ。
「これからかな王道の幕ノ内って感じのやつ」
包み紙をきれいに開きしまい込んだ。
「もしかしてそれも旅の記念、ゴミみたいなものなのに」
男の趣味はなかなか女性には受け入れられていないことを体感した。
「母さんも父さんの昭和コレクションを片付けてっていつも言っているけど父さんは捨てられないんだよね。ほらこれは幕の内弁当ていって、割子っていう仕切りでおかずが区切られているんだ。半分っこしよ、どれがいい、僕はこの出汁巻き卵、どんな味付けか気になるんだ」
「私はこの焼き魚」箸を伸ばしてパクリと食べられた。続いて揚げ物。メインになりそうなものをどんどん食べられて、晴明は煮物など地味なものを食べる羽目になってしまった。
「あっ湖だ。すごくきれいだね」晴明は窓の外を見て言った。
「本当、ベールから出たことがないからこんな景色が近くに広がっていただなんて、それにお弁当も美味しいね」
「やっと調子が出てきたね、次はこのお寿司」それは柿の葉でくるまれた押し寿司風のものだった。
「柿の葉はポリフェノールを含んでいて抗菌作用があるんでこうして食べ物を巻いたりするんだよ」
「物知りなのね晴明は、もしかして学校とか行ってるの」
「サマラは学校行ってないの」
「お姉さま方がいろんなことを教えてくれるけどベールの学校に通いたかったわ」
「僕たちの仲間は同い年が多いから学校通っているのと同じだよ。早く会わせたいな」
柿の葉寿司を食べ終わり最後の一個を取り出した。
「こんなものがあるなんて、驚きだったよ。神戸にも同じ駅弁があるんだ」
「こうべ?」
「あっ僕の住んでる街だよ。ほらこの紐をひくとお弁当があったまるんだよ。ハルト焼き弁当だって」
湯気の上がったすき焼弁当に生卵が遮熱材にくるまれて置かれてあった。
「こっちの世界ではハルト焼きなんて言われているけどすき焼って僕らは言っているよ」
「美味しいわ、お醤油と砂糖の味」
「みんなと一緒にすき焼食べようね」
そのあと、夜は食堂車を満喫して列車は何事もなく一日の走行を終えようとしていた。




