◆列車の旅
ベールの港に近いところにステーションはあった。
「すごいね。立派な駅舎だよ」煉瓦造りのいかにも駅舎と言った様式であった。
「急がなくちゃ、一日二便しかないのよ。ドメルまでは二泊三日の旅、初めてなのよ列車に乗るのは」
「サマラ!」ジャスミンが晴明たちを見つけて荷物を持ってやってきた。
「荷物多いわよ。邪魔になるじゃない」
「僕が持つから平気だよ」
アイテムボックスに収納した。
「お前魔術まで使えるのか、サマラをよろしく頼むぞ」
意外と悪い人じゃなさそうだ。サマラを心配しているようだし
「旅は道ずれが多いほど楽しいからね」
「ぴぽぽぽぽ」
「でやんす」
バットリたちも新しい仲間を歓迎したようだ。
「これがドメルまでの切符だ」
二枚の切符を渡された。
「ジャスミンさんの料理美味しかったよ。アースラさまにもよろしくね」
駅構内の待合所に二人は入っていった。出発を待つ人たちでいっぱいであったが晴明はきょろきょろと周りを見ていた。
「なにしてるの晴明、列車に乗るのはあっちよ」
「いや、弁当売り場はどこかなと思ってさ、旅には大事なんだよ」
「さっきジャスミンの料理を食べたばかりなのに」
「いや違うんだよ、列車の窓の景色を見ながら食べる醍醐味を味わいたいんだ」
「それいいわね」サマラも一緒になって弁当売り場を探し始めた。
「ここだ!」売店を探し当てた晴明、いくつかの店が並んでいた。
「晴明、どれにしよう」
「そうだな三つくらい買って二人で分けて食べよう」物色を始めた。
構内で待つ人々が動き始めた。列車の出発が近いようである。
「早く!晴明乗り遅れちゃうわ」サマラが手を引っ張り開札へ向かった。
御駅弁を抱えた晴明も急いだ。目の前に列車が現れた。
「あっ!すごい!!あじあ號だ」
その昔中国大陸で走っていた日本製の列車と瓜二つであった。流線形のパシナ形蒸気機関車と専用固定編成の豪華客車で構成されていた。晴明も大好きな蒸気機関車である。
その駆動は蒸気ではなく魔石なのだろうが
「見とれてないで乗るわよ。切符出して」
乗務員に切符を見せて席に案内してもらった。
個室の一等車両であった。
「いい座席だね」向かい合わせに座る二人、汽笛が鳴り響き列車が動き出したのであった。
ベール駅を出た列車はブドウ畑や田畑の広がる平野を走行していた。晴明は駅構内でもらった時刻表を眺めていた。
「たくさん何か駅に置いているもの集めてたけどそれは何?」
「時刻表だよ。列車の運行情報が載ってあるんだ。旅の思い出に色々集めたうちの一つだよ」
「ふーん、妙なものを集めるのね。で何かわかったの」
「ベールからハルトの街まではノンストップだね。車中一泊してハルトの街だね」
「そうね。これといった大きな町はないしそんなとこね。それよりお弁当いつ食べるの」
積まれた弁当を見つめて晴明に聞いた。
「そうだね。路線のマップを見るとあと二時間くらいで山間部に入るみたいなんだ。滝と湖もあるみたいなんでそのあたりで食べようか」
「いいアイデアね、でも喉が渇いたわ。何か飲み物は勝ってないの」
「車内販売があるみたいだから、列車の中を探検がてら買いに行こうか」
「賛成!」
二人はコンパートメントを出て後ろの車両に向かった。食堂車を抜けると三等座席であった。乗客はヒューマンばかりだが数名のドラゴノイドもいる。ドラゴノイドはサマラの姿を見て首をかしげている。そこへちょうど車内販売のカーゴを押した販売員が向こうから来た。
アールグレイのアイスティーを二つ買い引き返そうと食堂車の方へ向かう、戻ろうとする二人のうしろから座席から立ち上がった女が後を追った。車両の連結部で
「ちょっと待ってください」女が二人を止めた。
振り返る晴明とサマラ
「なんですか?」顔には見覚えがない、サマラも同様だ。ワイルド・キャットからあとをつけた女であった。
「もしやハルアキ様ですか」
「えっ!どうしてそれを」晴明は驚いた。
「話は食堂車で」
食堂車のテーブルに二人を座らせてカウンターで三杯のカップを持って戻ってきた。
「まずはどうぞ」
飲み物を進めてきた。エスプレッソのようだ。女は角砂糖を山ほど入れて
「私はヘイ・オン・ワイ商会のものですと言えばお分かりになりますよね」
「エイジェントなんですか」
「Jと呼んでください、本部から送られてきた資料の中にあなたを知りましたが、どうしてサマラ姫とご一緒なんですか」
「ひ、姫!?聞いてないよサマラ」




