◆ギグスタート
航行中の飛行船の中ではタマモと百花はギターの練習に集中している。長いブランクでまだ思い通り演奏できていないそうだ。
「宝蔵院君、私にドラムセットなんて用意できないかな」
永清も刺激を受けて演奏に参加したようだ。百花のそばにいたいのかもしれない。
「興味深いですね。まさか水無瀬教授までそんな趣味があろうとは、この船には修理に使った立体プリンターがありますのですぐにご用意します」
「頼んだよ」
というと飛行船に設けられた自室に戻って行った。
「天鼓君、永晴さんと何を話ししてたんだ」
その光景を見た晴人は宝蔵院に声をかけた。
「そうか、俺のギターもついでに作ってもらおうかな。あの音を聞いたらむずむずしてきたよ」
「喜んで、頼まれたスピーカシステムは例の機能を装備しておいたので音源は多いほうがいいですよね」
晴人は指を立てて軽足の所へと歩いていった。
「どうだい軽足団長、順調に飛んでいるか」
「こいつは驚くほどレスポンスがいいね、戦いになっても結構やれると思うよ」
「そいつは心強いな。あいつらの飛行船と空中戦になるかもしれんからな」
コックピットから晴人はしばらく空を見つめていた。
「晴人さん、永晴さん、工房までお願いします」
船内放送が流れた。
「早いな、もう頼んだものができたっていうのか」
工房に向かうと永晴の方が先に来ていてさっそくドラムを打ち鳴らしている。
「天鼓君ありがとう、永晴さん、ご熱心だな。妻たちが練習しているとこに早くいこうぜ」
晴人は永晴のドラムセットを一緒に運んだ。後ろから宝蔵院とリリもついてきた。
「おーい俺たちも混ぜてもらえるか」
「あら、楽器を用意したの、ハルト、昔のナンバー覚えてるの」
「任せとけよ俺の作曲したやつもあるだろ」
晴人は軽快にピックを打ち鳴らしていた。それに合わせ永晴もドラムをたたいた。
「あのう、楽しそうなので僕も参加してもよろしいですか」
キーボードをリリと運んできた宝蔵院だった。
「じゃあ、セッションスタートだ」
警戒音が突然スピーカから流れた。
「敵襲です!無数のガーゴイルと共に例の黒い飛行船が十二時の方角から」
「へへ!ちょうどいいな。天鼓君あれを試そうぜ、やつらとギグとするか」
「わかりました。システム展開します」という宝蔵院はキーボードを操作した。
「チャンネルオーケーです」
「お嬢さんたち派手にやろうぜ」
「敵を迎え撃たなくていいの晴人」
「いいんだいくぜ!」
ギターを弾き始めた。オーディオルームのスクリーンに敵の姿が映し出されている。
タマモと百花のギターも続く、慌てて永晴もドラムをたたいた。
スクリーンに映るガーゴイルが破裂したかのように飛び散っていく
「なに晴人!」
「演奏を変換してスピーカーから破壊音波にして攻撃しているんだ。どんどん行くぜ」
キュイーンと晴人のギターが鳴いた。
「くっそーなんだあの装備は、撤退するぞ」ザグレットが叫んだ。
リリム(晴海)は演奏を聴いているかのようにただ立ちすくんでいた。
「なんだよ、もう撤退していくのか、早く決着をつけたかったのにな」
晴人は残念がって演奏を中断して出ていった。向かったのはこれも宝蔵院にリクエストしていたバーカウンターだった。
カウンターに身を乗り出し裏にある冷蔵庫からビールを取り出してそのまま飲み干した。
「ハルト、私たちにも頂戴よ」
タマモと百花たちがやって来た。
再び身を乗り出しビールを二本投げてよこして
「永晴さんにはこれだな」ジンジャエールを渡した。
「いいものですね音楽というものは心が解放されてうきうきしちゃいました。僕にもできるものなんでしょうか」
「ヨシュア、君のそんな言葉初めて聞いたな。いつも僕なんかとかネガティブなのにな」
「教えてあげるよドラム、君の動き見てたらリズム感よさそうだし、似合っているよ」
「永晴さん、本当ですか」
「もちろん、今すぐにでも行こうぜ練習に」
ヨシュアは永晴についていった。
「私も初めて見たなあんなヨシュア、音楽というやつは人の心をこんなに揺さぶるものなのだな、我も少しやってみるかな」
「いいねカグヤちゃん、雅楽部というのもいいかもしれないな。俺や晴明の力にもなるしな、、御堂は鼓を貴具は小堤、笛を担当してもらおうかな。指導頼むぞ御堂」
「は、ははいご命令のままに」
「もっと増やしてビッグバンド結成しようよ」
「そのうちにな、最終決戦までになタマモリーダー」




