●旅は道連れ
夜は酒場も兼ねているので大した喧噪でこちらの気分も上がる。あちらこちらで笑い声、目と鼻の先の都市が占領されたことなど知らぬことのようだ。それでもユートのことを話しているグループもいる。
ウエイターにメニューとまずはのビールを頼んで席に着く、内陸の街なので肉料理がメインで並ぶ。ビールが届いたときザっと料理について聞いてみたが大体わかった。ドイツ料理だ。ザワークラウトのようなものとソーセージの盛り合せを頼む。それとアイスバインを追加する。ビールをぐびぐびと呑む。横でタマモが恨めしそうな目で見ているがお構いなく「ぷっはー」パンにソーセージがテーブルに並ぶ。肉とビール、中年の健康診断前には厳禁な食事だが16歳にはコレステロールも体脂肪値も関係ない。
ヴァイスヴルストじゃないか、白いソーセージで皮の中身を食べる。マスタードをたっぷりつけてビールで流しこむ。タマモも真似をしてマスタードをたっぷりつけて食べるが顏がみるみるしかめっ面になる。ガス入りの水をごくごく飲んで流し込んだ。アイスバインはほろほろと柔らかい肉味付けもいい、マスタードをつけたいところだがちょっと我慢。
隣のテーブルで一人ご飯を食べているフードの女性がいる。そこへ酔っ払い絡んできた。
「姉ちゃんこっちへ来て一緒に呑まないか」手を引っ張ろうとする。
「一人静かに食べてるんだよ。やめないか」俺は立あがって酔っ払いの手を振りほどいた。
「兄ちゃんかこつけるんじゃないぞ」いきなり殴りかかってきたが難なくかわし、足をかけてひっくり返した。起き上がらない。それはそうだみぞおちに一発きついのをくらわしているから、その男と同じテーブルのやつらも二人こちらに向かってきたが「加速」何も言わないうちにのしてしまった。
「騒がしてすまなかった、話し合いは付いた。小一時間は目を覚まさないのでゆっくりやってくれ」ほかの客に詫びを言い、酔っ払い三人をまとめて床にころがしておいた。早業に拍手が起こった。店主がやってきてこの三人は昨日も問題を起こして手を焼いていたそうだ。「これを呑んでくれ、これにこりてちょっとは大人しくなるだろう」ビールを一杯ごちそうになった。
「ありがとうございました」フードを取りお礼を言ってきた。尖った耳に透き通るような白い肌、エルフじゃないか、初めて会ったよ。エルフは自分の集落からあまり出ずにほかの種族とはかかわらない。
「いや、酒がまずくなるから注意しただけだ。気にしないでくれ」
「きにちゅるな」タマモも尖った耳に興味を示していた。じろじろと見ている。
「こっちに来て一緒に食べるか。そのほうが美味しいぞ」俺も初めてのエルフに興味がわいた。
「ではお言葉に甘えて」エルフの少女は自分の食べていたサラダを持ち同じテーブルに着いた。
「俺はドーマハルト、オオガミにイソルダ、アルジェこのちびちゃんはタマモだ」
「ハルナです。お手間をおかけしました」ほとんど手間はかからなかったんだけど
「どうして一人でこんな奴らもいる酒場に来たんだ」
「ユートへいこうと思いましたらシーモフサルトに占領され、行くにかなわず困っておりましてここの宿に泊まることになりました」
「ユートか俺たちはそこから逃げ出してきたんだ。ユートにはどうして?」
「船でベールへ向かう予定でした」
「ベールなら俺たちも陸路で明日立つ予定だが、女一人旅じゃ物騒だろ、一緒に行くか」
「そんな、よろしいのでしょうか」
「よろちゅういよ」
「タマモもこう言っている。旅は道ずれ世は情けだ。俺たちはまったくかまわない」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
食事を済ませ部屋に戻った。
「ハルト、厄介ごとを引き受けたな」
「まあそういうなよ。オオガミ、困っていただろ、それに大勢のほうが楽しいじゃないか」
「一言よろしいでしょうかハルト様、素性の知れない女をお連れになるなんて、無防備すぎますわ」イソルダは反対のようだが「大丈夫ですわ。ハルト様のお優しさに心打たれました。イソルダと私で監視はしておきます」
「タマモ、とんがり耳さん好き」
ということでまとまったようだ。明日からベールへ向け旅の始まりだ。