●冒険者ギルド
店の中が騒がしい何か嫌な予感がする。
「タマモ!ちゃんと席についてなさい!」
イソルダの叫びが聞こえる。やれやれ、何をやらかしてるやら。
「どうしたんだ、イソルダ?」
「ハルト様、タマモがあちこちのテーブルへいって人の食べているところをじっと見て廻っているのです」
「なんだまだ注文していなかったのか?」
「ええ、ハルトが来るまで待つといってきかないのです」
タマモを見つけ抱き上げる。
「お腹がすいてるなら早く食べてればよかったのに」
涎をたらしたタマモの口を拭く。
「おい、ちゃんとしつけとけよ。じろじろ見られて食いにくいんだよ」
冒険者風の男が文句を言っている。
「すまなかった。おい!このテーブルにビールを」ウエイターに告げる。
「おごりだ!ゆっくり食ってくれ」
「ハルトと一緒にご飯食べる」おなかを鳴らした。
「わかったよ。早く注文しよう」席に着く。ほかのみんなも律義に待っている。
「なんでもいい、早くできるものを四つ頼む。それと先にビールだ」
「タマモあれ」隣のテーブルの野菜スープを指さしている。
「野菜スープも一つ!」タマモが俺の膝の上に座る。子供には椅子が合わないか。しかたない。
ビールが来たさっそくのどを潤す「ぷっはぁ!」旨い、16年ぶりの一杯だ。
この後は冒険者ギルドへいって登録だ。金は屋敷から金貨10枚ほどくすねてきたが稼がないと旅もままならないな。金貨一枚が日本円で十四、五万くらいだったか。どうしても円換算してしまう、海外旅行へ行った時もそうだった。ふと陽子といったイタリア旅行を思い起こす。
「ぷっはぁ!」
なっなんだ?タマモがビールを呑んでいる。
「こら!子供の呑むもんじゃない」ジョッキを取り上げた。
「おいちい、ヒックっ」驚いたいける口じゃないか。晴明もこれくらい豪胆だったらよかったのだが酒には興味を示さなかったな。そういえば陽子もビール好きだったな。
料理が運ばれてきた。パンとツヴィーベルフライシュ、サワークリームのついたドイツ風のビーフストロガノスのようなものが来た。一口食べるとギアーレ肉だった。またかしかし味付けは抜群だ。ビールに合う。タマモを見ると手づかみで食べている。
「タマモ、フォークとナイフを使うんだぞ。アルジェの食べ方を真似しろ」
この調子だと野菜スープまで手で食べそうだった。スープも運ばれてきた。スプーンですくってタマモに食べさした。「おいち、もっと」手にスプーンを握らせて食べるようにといった。
「ハルト~たべさせてぇ」ここはちょっと締めておいたほうがいいな。
「おーい、子供用の椅子はないか」
ウエイターが運んできた。
「ここに座って一人で食べるんだぞ」
小学校一年生の年頃だ。しっかりしつけておかないと親御さんに申し訳ない。
「いや、ハルトのお膝がいい」ビールに手を伸ばそうとする。
「これも駄目だ!大きくなってからだ」
「えーん」
泣き出してしまった。まいったな。イソルダがあやす。
「ここに座ってちゃんと食べたらすぐ大きくなるから、ビールも呑めるようになるからいい子だから、ここで食べよ」
自分の席を近づけてパンをちぎって渡した。
「ほらこうして食べると美味しいよ」スープにパンをつけてタマモに食べさした。
ビールが飲めるようになるが効いたのか大人しくなった。これでゆっくり食べられる。
イソルダの子供をあやす能力は役に立つアルジェも陰ながら面倒をよく見てくれている。一人だったらと思うとぞっとする。息子なら慣れたものだが女の子となると勝手が違う。
すかっり腹いっぱいだ。タマモも満足しているようだ。眠気が来たかウトウトしだした、
「おーい勘定頼む」手を上げウエイターを呼んだ。
「銀貨一枚と銅貨十八枚です」三千円ちょっとか、安いな。銅貨一枚をチップで渡す。
「ここは宿もやっているのか」
「はい、一部屋ベット二つで銀貨二枚です」オオガミは寝ないし、どうせタマモは俺のベットで寝るだろうし「部屋をひとつ今晩開けておいてくれ、クラディウスだ」ウエイターは受付でメモしているようだ。もう一度呼び冒険者ギルドへの場所を聞き馬車を預けた。
「さて、冒険者ギルドへいくか」眠ってしまったタマモをおぶって山猫軒をでた。
ギルドは空いていた。朝はクエストの受注で夕方は報告などでごった返すらしい。
「はい、ドーマハルト・クラディウス様、登録が済みました。ランクCでのスタートとなります」ユートガルト学園卒業生はEDを飛び越えてCランクがもらえるらしい。
銅製の名前が入った認識票をもらった。魔法で処理され行動記録が残るようになっていた。これでどこへ行っても大丈夫だ。
オオガミに聞くとすでにSSSランク登録済み、イソルダ、アルジェもSランクらしい、ひとりCではかっこが付かないな。さて依頼をざっと見るパーティーの上位ランク者の依頼が受けれるのでほぼどんな依頼いもいけるのだが、薬草採取やC難度の魔獣退治など心躍るような依頼はない。報奨金も安いものばかりだ。
「朝一番で主要な依頼はなくなってしまいますよ。明日もう一度いらしてみてください」職員が言っている。
「このD難度のギーアレ討伐はすでに昨日一匹退治しているのだが受注してかまわないか」
「ええ、牙と毛皮と魔石があれば大丈夫です」アルジェのリュックから取り出し渡す。
「大きいですね。では認識票をここにかざしてください」
「はい、銅貨十枚お受け取りください。それと成果品を隣の窓口で売れますの必要ないのであればどうぞ」隣の窓口に行くと山猫軒でビールをおごった男がいた。
「おうさっきはごちそうさんよ。換金か」牙と毛皮と魔石を渡す。
「牙が銅貨三枚、毛皮が八枚、魔石が十枚、しめて二十一銅貨だ」全部で千円にもならないのか。D難度の依頼はまとめて十匹、二十匹倒さないと日当も出ないな。
「肉を肉屋に直接持って行けばこの大きさのギアーレだと銀貨十枚くらいになるぞ。ビールのお礼だ」まだ半分くらい残っているな。「ありがとうそうするよ」肉屋の場所を聞いてギルドを後にした。
肉屋では銀貨五枚という買い取り査定「金でなく現物だともっと割りがいいか?」
「ああ、六枚分のそのソーセージを二キロでどうだ」
「いいよ」これからの旅用だ。アルジェのリュックに詰め込む。ほか色々な店で食料を買い込む。アルジェのスキルは重宝する。 道具屋で旅に必要な日用品や地図を買い、ついでに今着ている貴族の服の買取値を聞いてみた。銀貨十枚だと聞き銀貨一枚の古着を買って残り買物の支払いに充てた。手取銀貨五枚かまあまあだな。
「さあ少し早いが宿に戻るか。タマモもちゃんと寝かせたい」
「私たちは少しギルドの依頼をこなして帰りますのでお先にお戻りください」
三人は町を出ていった。働き者でよかった。
山猫軒の二階は宿屋となっていた。タマモをベットにおろして地図を眺めベールまでのプランを練った。バイクのツーリングなら一日6時間くらいは乗る自信はあるがトラクターは尻が痛くてかなわない。やはり馬を買うか、金貨三枚くらいはするな。必要経費だしかたない。あのおんぼろトラクターも銀貨五十枚くらいには売れるだろう。六つの宿場に泊まって約一週間か。経費を計算したらなんとか手持ちの金でベールまではいける。まあ季節もいいし野宿も考えておこう。
しばらくして三人が戻ってきた。
「お帰り、首尾はどうだった」金貨一枚と銀貨三十枚、驚いた何匹魔獣を討伐してきたんだ。いらないというが銀貨を十枚づつ三人に渡すと「そのくらいは何かの時に持っておけ、はぐれることもあるかもしれん」念のための備えだ。
「お腹かちゅいた」タマモは起きるなりいつものセリフだ。
「下におりて飯にするか」
山猫軒の一階へ向かった。




