◆ジャグリング・サーカス
「さてさてどうしたものかな。諜報活動は久しぶりでどうしたものか、天よ、何か考えはないかい」
サーカス団団長ではあるが自衛隊の秘密工作部隊に所属した軽足は開始早々いきなり困り果てていた。
「団長、沢山の人のいるところへ行けばどうでしょう。街の中を散策しましょう」
「いい考えだ。ヤーシャどうだ。人のいそうなところはどのへんかな」
ヤーシャは身軽に高くそびえる木をくるくる飛び跳ねて登り辺りを見渡し、飛び降りてきた。
「あちらに公園のような広場がある」と指した。
「テンテン、早くいこう」
リリが駆け出して行ってしまった。
「リリ、急がなくていいんだよ。気を付けて」
宝蔵院が後を追っていった。
四人は街の中心のセントラル公園といった場所にたどり着いていた。
「ほう、立派な広場だな。あちらこちらでヴォードヴィリアンたちが芸を披露しているぞ。よーし閃いたぞ」
軽足はしゃがみ込んでごそごそと準備を始めた。
「だんちょさん、何してるの」
リリがツンツンと背中をつついている。
軽足が立ち上がりふりむくとクラウンの化粧姿でパントマイムを始めた。
地面に突き刺さる何かを懸命に抜こうとしているがなかなか抜ける様子がない様を表現していた。
「てんてん、だんちょさん、何を抜こうとしているの」
リリは不思議そうに見つめている。やがて広場の人たちもその姿が気になり集まってきた。
瞬く間に人だかりができ始めた。宝蔵院はリリを肩車をしてその輪のうしろの方へと下がり人びとを観察し始めた。
その滑稽な様子に笑いが起きていた。疲れ地面に突き刺さった何かにもたれかかる団長、あたかも本当に何かがあるかのように斜めに傾く体、そこへ同じようなメイクをしたヤーシャが登場した。
おもむろに団長のよりかかるその突き刺さるものをいとも簡単に抜き去った。団長は倒れ転がっていた。
ヤーシャはそれをまじまじと見つめると振り回し始めた。
慌てた団長はそれを取り返すように飛びかかるがひらひらとよけるヤーシャ、踊るように逃げ回るヤーシャに団長は懐から大きな布を取り出して広げ投げつけた。観客たちからヤーシャの姿が消えた。
するとすっぱりと切れる布、ヤーシャの手には剣が握られていた。団長は木の棒を取り出していた。それでヤーシャに襲い掛かるが、スパスパと木切れを切り放った。今度は団長はそのばらばらとなった木切れでジャグリングを始めた。そしてその一つをヤーシャの方へ渡すと剣を交えてヤーシャもジャグリングを始めたのであった。
拍手が一斉に起こった。リリも手を叩いて喜んでいる。
宝蔵院は団長たちの芸を見ずに観衆に目を向けていた。その中に明らかに人族らしき人物を見つけ出していた。




