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●獣人の娘

 目をそむけたくなる惨状、村の建物には火が放たれ、逃げようと後ろから斬られた獣人たちや、女子供の死体が転がっている。


「ひどいな、ここまでやらなっくても、ユートヘの合流が遅れるのもいとわず、楽しんで攻め滅ぼしやがって」怒りが込み上げてきた。ただの農村だぞ!


 ハルトのまだ自我の戻らぬ幼い頃の記憶に、屋敷の厨房にこの村から行商でやってくる獣人の若夫婦の思い出があった。獣人が物珍しくて好奇心で隠れ見ていたハルトを手招き引き寄せ、耳や尻尾を動かして相手をしてくれた人がいた。楽しそうに笑う子供好きの獣人たちだった。


「オオガミ手当てができる人がいないか探そう」イソルダ、アルジェともども探し回る。イソルダが探しに行ったほうで竜巻が起こっている。皆が集まるとそこには、イソルダが拾った鍬を持ち戦闘体制に入っていた。


「どうしたんだ、イソルダ」

「獣人の子供があの二人の死体を調べていたら突然あらわれて、この竜巻を」

 見ると渦の中心に幼い女の子がいる。泣きわめき両親と思われる遺体にしがみついている。サイキッカーなのか念動力で周りの瓦礫や何もかもを巻込み誰をも近づかせない思念で自己防衛をしている。


「もう大丈夫だよ。敵はもういない」イソルダの声は届かない。ますます勢いが強くなっていく。このままあの力を使い続けては命の危険もある。生命エネルギーがどんどん減っている。


「気絶させようかハルト」

 泣いている少女を見ると胸が締め付けられ、助けないといけない、何かがそう言っている。

「いや、俺が行く」

 瓦礫の飛び交う中を進み少女に近ずく、小さな石や硬い塊が体中を穿(うが)つ、よろめき血だらけになりながら目の前までたどりつく。


「いやー!!!」

 さらに泣き叫ぶ少女をぎゅっと抱きしめる。


「もういいんだよ。泣かないでお兄ちゃんが守ってあげるから」

 とりわけ大きな瓦礫が頭に直撃した。少女の目の前にあおむけに倒れた。しかし手を伸ばし「こっちへおいで、大丈夫だよ」笑って見せた。嵐がぴたりと止んだ。われに返った少女がハルトにぎゅっと抱き着き気を失った。

「大丈夫かハルト、まったく無茶をする」アルジェが血を拭きながら「沐浴(アブル)」治癒の呪文で看護する。


「なんでかな」

 何かこの子を守らないと陽子に叱られる気がしたなんていえない。


「村の人たちを埋葬しよう」少女が抱き着いていた夫婦を見ると幼き日、俺をかわいがってくれた人たちだった。住んでいる小屋の中を見るとこの子の姉か兄たちの遺体もあった。怒りがまた湧き上がる。


「ドメルまでまだかなり距離がある。ここで夜営して朝を待とう」オオガミは空き家を探る。そして手分けして墓を掘り遺体を埋め墓標代わりに石を置いた。


 小屋の中で眠る。少女はまだ眠ったままだ。イソルダが抱いて寝るようだ。オオガミは小屋の前で夜警すると言って腰を下ろしている。まだ頭がふらふらする。甘えて眠らせてもらおう。空には大きな月と小さな月、二つの満月が弔いの光を照らしていた。


 翌朝目覚めるとあの少女が俺に抱き着いて眠っている。同じく目を覚ましたようだ。

「お兄ちゃんだいじょうぶ?いたいいたいない」頭をさすってくる。

「なんともないよ、お名前は?」

「タマモ、むっちゅ」三本の指を立てているがそれは三つだ。

「ハルトだよ。体は何ともないか」ぺこりとうなずく、あんなすごい念動力を持つなんて獣人の妖狐族の中には強いサイキック能力が生まれることがままあるそうだ。両親の死のショックで隠された力が発動したのかもしれない。


「どうするハルト、ドメルまで連れて行ってどこかに預けるか」

「そうだな、ここは誰もいない、それしかないな」俺の服の裾をつかみタマモは悲しそうな顔をして俺を見つめる。そんな目で見つめられても・・・

「わかったよ、一緒に旅をしよう」見る間に笑顔が広がり尻尾を振る。

「大丈夫か。そんな幼子を連れて」

「イソルダ、アルジェ面倒頼むよ」

「はい、ご命令のままに」

 陽子がどこかで見ていてしっかり育てろといっているようだ。あいつも女の子が欲しいといつもいっていたな。わかったよ陽子、タマモの頭を撫でた。


 タマモは両親たちの墓に花を手向けお祈りをした。

「おとうたま、おかあたま、やちゅらかにお眠りください」涙をぬぐい俺に抱き着いた。

「さあ、とりあえずドメルへいくぞ」

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