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〇平安時代へ

 机に向かい日本史の教科書をオレンジ色のマーカーペン片手にラインを引き引き読む少年、線を引けば覚えた気になり悦に至れる。それは意味のない行為だとはわかっていない、開け放たれた窓の外には澄んだ青い満月が輝いていた。


 ペンをポイとばかり机に投げ捨てると本をピシャリと閉める。「よーし、明日の期末テストはこれで万全。平安時代の()()の部分は完璧に覚えれたぞ、ひとっ風呂浴びるとするか」


 独り言を吐くと日付が変ろうとする時間、彼は14歳の老舗温泉旅館の一人息子、ハルアキはタオル片手に露天風呂に向かった。客のいないこの時間、一人で風呂につかるのが一日の終わりの楽しみなのである。

「それにしても今日は特別に満月がきれいだなぁ」金泉と呼ばれる茶色く濁った湯船につかり、日本史を読んでいたせいか和歌のひとつでも詠んでみようと試みたが、そんなごりっぱな素養は持ち合わせていなかった。諦めると明日の朝はぎりぎりまで寝て父さんに学校まで車で送ってもらい、車内で母さんの特製サンドウィッチでも食べていこうなど甘えたことを考えながら夜空を眺めていた。どこからか梅の香がする。

「あれれ?おかしいな月が陰っていく?月蝕だったっけ?」

 頭上に魔法陣が現れハルアキを湯の中に押し沈めていく。

「ああぁぁぁサンドウィッチ!!」

 月は隠れ暗闇へと落ちていく。

 湯船には意識をなくしたハルアキがぷかりと浮かんでいた。


         ◆


 目覚めるハルアキをタウロの大きな顔面がのぞき込んでいた。


「ひえ〜ぐっうあぁぁっ!!たすけてぇ」後ずさりをする。


「安心しなハルアキよ。そいつは見た目は不細工だが害はないぜ」

 オオガミものぞき込む。

「どっどうなっているのですか?なっっなんですか?ここはどこですか」

「お前の精神はこの平安の世に召喚されたんだよ」

「えっ平安時代?」

 さっき覚えていたとこじゃないかよ。そのせいで変な夢でも見ているのか?何のことを言っているのか全く理解不能だよ。それに何のため?いつの間にか五芒星の紋の入った古めかしい服まで着せられているじゃないか。


「紹介しておくよ。主人(あるじ)導魔法師(どうまほうし)様だ」

 困惑する少年にお構いなく、白面の男へとハルアキを導いた。


「その牛頭(うしあたま)がタウロ、俺はオオガミ」

「ドーマ?タウロ?オオガミ?」

 よく見るとオオガミという男には尻尾も生えているし耳も頭から生えている。

「何その耳としっぽ?」

「おお今日は満月だからサービスだ。普段はないぞ」

「ガッハッハハッハァ!!!」

 普段は物静かな男なのだが月齢が性格に影響するらしい。


「おらはいつも通りだ。不細工ではないずら」

 タウロがふんぞり返っている。

 いまだに何を言っているのかさっぱりだ。状況が呑み込めない。

「修行だよ。これからお前に訪れる()災厄(さいやく)に対する」

 導魔が言った。

「ドーマさん?どんな?」

「今はまだ知るときではない」

 ぐいとハルアキに近づき頭をつかんでいる。

「さてダウンロードするぞ」

 ダウンロードって平安時代の言葉かよ。もっともな疑問だが耳のとがった宇宙人が同じように頭をつかんで精神感応している映画のシーンを思い出した。


「あぁ、ちょっと何するの」

 体に電流が走り目の前に文字のようなものが浮かび意識が飛ぶ。


≪スキル智慧(ちえ) ハンニャを取得しました。≫


 どこからか声がした。

 そのあと、どんどん同じ声でいろいろなスキルと知識の取得が続いた。

 いつまでつづくのか。

 頭がボーとして、意識が遠のいていく。

「意識を失ったようだな。今日はここまでとしよう。休むかオオガミたちよ」

「はっ」

「へい」


 導魔法師と呼ばれるこの男は三年ほど前に突如、オオガミという従者を引き連れ、京に現れ、町で起きる数々の怪事件をいとも簡単に解決し、都中の注目を浴びていた男であった。

 そして一行は夜明けを待つことになった。

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