◆晴海の涙
「とっとと引き下がれアスタロト!」
晴明たちの後ろから声がした。
その声に最初に反応したのは晴海だった。誰よりも早くふりむいた。
呆然と立ちつくす晴海
「どうしたの晴海」
「・・・」
父と母の姿を見た晴海は声を失っていた。声の主を見た晴明も写真の人だと認識した。
「また裏切り者のその女とお前か、邪魔をするな」
永晴たちは晴海に気が付いていないようだ。
「君たちは危ないので下がっていなさい」
アスタロトは再びワイバーンの姿を取った。
永晴は弾帯がついたM60マシンガンをいきなり打ち出した。
すさまじい銃声が鳴り響きワイバーンの翼を打ち抜いていった。
そして巨大な狐火が直撃する。
落下するワイバーン、晴明たちは勝負がついたと思ったが、ワイバーンの翼が再生していく。
「やはり頭を粉々にしないとだめか、百花、あれを出してくれ」
百花はアイテムボックスからロケットランチャーを取り出し永晴に渡した。
「援護頼むぞ」
照準をワイバーンの頭に合わせ構える永晴のうしろから狐火を連発する百花。
ワイバーンの動きが止まった瞬間、ロケットランチャーの引き金に力を入れようとした刹那、ワイバーンは炎を吐いた。
割って入る晴明
しきたへの
ころもまといし
土壁
業火から永晴と百花を守った。
「悪いな坊主、でも手出しは無用だ」
と言ったが宝蔵院がゴーレムを召還してワイバーンに向かわせた。
がっちりワイバーンを掴む三体のゴーレム、永晴の手放したM60をヤーシャが拾い打ちまくった。
我を取り戻した晴海が青龍の弓でワイバーンの目を射る。
ホワイト・ラビットがワイバーンの喉笛を切り裂く、晴明が呪文を詠唱する。
ちはやぶるかみのちぎりしほむろあれ
おほけなしものをしたたむれ
火柱
ワイバーンの足元から炎が体を焼き尽くす。
その気を逃さず永晴がロケットランチャーを頭めがけて放った。
地にひれ伏すワイバーン。
「倒した。おじさん・・・」
晴明は永晴に声をかけようとしたが、ワイバーンの体が無数の蝙蝠のような小さなワイバーンとなって空に消えていった。
「また、逃げられたか、しかし」
永晴の手に握られた鞭がカグヤの持つ実に伸び奪い取ってしまった。
「若い冒険者たちお手伝いありがとうよ。いくぞ百花」
百花は永晴に抱きつき、
あまとぶや
かりのゆくさきしめしけれ
かのちめざしてとぶらう
転送
二人は消え去ってしまった。そのとき永晴は晴海に気がついたが
「まさかな」
の一言を発するのみであった。
まさか自分たちの愛娘がこんなところにいるわけもないと思ったのだろう。
「パパ、ママ・・・・」
地面にがくりとひざを落とす晴海であった。
「元気を出しなよ晴海、きっとまた会えるさ」
それでもボロボロと涙を流す晴海だった。
「晴海、安心しなさい。奪われる瞬間、小さな式神の式札を憑けておいた、おそらく気が付かれぬであろう。われらが近くになれば知らせてくれるであろう」
カグヤが晴海を安心させるため式神の存在を教えた。
「ありがとう、カグヤ・・・」
涙も少し引いてきたようだった。
「でも晴海のお父さん、すごかったね。まるでランボーかコマンドーみたいだったね」
「バカ、晴明、あんな筋肉マッチョじゃないわよ。ダンディで知的な教授なのよ」
少し笑みが戻る晴海であった。




