〇迦樓夜叉のたくらみ
福原より戻って四日後
疲れ果てた康成が朝から八坂の神社の茶屋で
「清盛さまもひどい、ご自分は法師様のところで毎晩呑んで仕事は私一人にまかせて、やっと仕上げたのにお褒めの言葉もない」
一人くだをまいて酒を呑んでいる。
「あら、お武家さん、お酌でもしましょうか」町娘が近寄ってきた。
「ハルアキ!打ち込みが弱い!」上弦の月もすぎて力も満ちたオオガミの修業は激しい。
「ちょちょっと休憩」お昼から立ち合いの稽古が休みなく続いていた。
「よし、お茶にするか」アフタヌーンティ、甘いケーキが欲しいよ。それほど体力も奪われヘロヘロのハルアキだった。
「ぼっちゃまー」タウロの声だ。おやつの期待。
「ぼたもちと桜餅だ」ちょっと渋めのお茶も来た。そんな季節のお菓子で元気をつけてもらった。
「グッドタイミング!タウロさんありがとう」
「様子をうかっがっていただ。坊ちゃま強くなっただな。見違えただ」桜の花びらが舞っている。
「まだまだだよ。オオガミさんが俺が本気になるくらいになれとか言われっぱなしだよ」
「いえいえ、有馬でお会いした時とは月とスッポン、おはぎとぼたもちだ」
おはぎとぼたもちも変わらないんだけど、タウロとのたわいのない会話を楽しんでいると
「さあ、始めるぞ」鬼軍曹の声、よしそろそろあの力を試してみるか、驚かせてやる。
「お願いします」一礼をした。鎌を頭上で振り回し備えるオオガミ、ハルアキはそれを中心にぐるぐると廻っている。正眼の構えの構えから加速で正面から突っ込む。と同時にオオガミの周りの小石が無数に飛びオオガミを襲う。土煙が立ち込める。面が決まったと思ったら鎌でいなされてしまった。
「これはタマモの技だな。おもしろい、使えるのか」
残念、一泡も吹かせることができなかった。
「俺以外なら決まっていたな。呪術ならその発動の前の気配で対処できるがこの力はそれにかなわん。防御力の強い俺みたいな相手はお構いなしで攻撃してくるが、もっと殺傷力の高い武器を飛ばせばかなりの敵でも大丈夫だぞ」おっ褒めてくれている。素直にうれしい。
「タマモさんほどの力やスピードはないけどこのくらいの物なら自由自在に動かせます」 蜘蛛切丸を飛ばしドローンのように操った。
「基本は剣技だ。小細工に頼らず励むのだ」小細工と言われちゃったよ。
「こらオオガミ!小細工なんて私の弟子に文句を言うな」
タマモがいつもの散歩から帰ってきた。弟子と言われても、タマモの教え方と言えば、「ザっ」ととか「ググッと」とか「バーと力を入れて」とか擬音ばっかりであまりよくわからない。結局自分で工夫して練習しているだけだ。
「あっそうだ。イロハの三人、都に来て開店準備始めてるよ。明日のお昼はうな丼にしようよ」
「そうだか、喜ぃ公、清やんも連れて、わしも様子を見に行くだ」
明日は鰻か楽しみだな。「ピー」「ピコーニャも食べたいか」蜘蛛切丸ドローンと一緒に飛んでいる。
「さあ、稽古を続けるぞ」ほんと食べることに興味がないんだから、人生損してるよ。
カラスが山へ帰っていく。稽古も終わろうとした頃、康成がふらふらと酔っぱらて帰ってくると導魔坊へと入っていく。
手には手、封印して布を巻いた迦樓夜叉の右手を持って出てきた。
「康成さん勝手にダメだよ!」
「いや、そこのおなごしが見てみたいと言っておるので、わしの手柄を見せるのじゃ」なんとも変なことを言っている。
「その呪符をはがして」後ろから女の声、康成が呪符をはがした。走り込んだ女は右手を奪い取り逃げ出した。オオガミが一閃、縦に真っ二つに切り捨てた。左右に分かれる女の間から一匹のカラスが、腕を足でつかみ飛び立った。蜘蛛切丸ドローンで追うが遥か彼方北の空へと消えてしまった。
「やられたな、迦樓夜叉のやつ力が戻らぬゆえ傀儡を使い取り戻しにきよった」
「わっわしはなんてことを」落胆する康成
「まったく色ボケ親父がざまあないよ」タマモも叱咤する。
「まあまあ二人とも、康成さん必ず僕が迦樓夜叉をやっつけるか安心してよ。元気を出して」肩をたたいて慰める。
導魔坊から導魔法師も出てきた。北の空を見つめ「待っておれ迦樓夜叉、必ず成敗してやるぞ」
僕らも北の空を見た。夕暮れは濃く紫へと北極星が輝いている。
さてさて、平安篇も役者がそろいました。奠胡、迦樓夜叉、槌熊たちとの戦いの幕開け、まだ見ぬ将門の怨霊はいかに。
ここからは異世界、ユートガルトを覗いてみますか。
時は今から二十と数年さかのぼります。いや一日後かもしれませぬ。ドーマハルト・クラディウスを追いかけてみましょう。




