◎探偵に依頼
「母さん!、ちょっとこっちへ来てくれ」
晴人は元の世界に戻ると女将として旅館の仕事をしているタマモを部屋に呼び寄せた。
「ちょっと待ってよ、今お客様の礼状へのお返事書いてるのよ。書き終わったら行くわよ」
早くいろいろなことをしゃべりたくてやきもきしながら部屋で待つ晴人の元へ和服姿の陽子が入ってきた。
「もう何よ。そんなにせかして、異世界いったんでしょ。晴ちゃんは元気だった」
「ああ、相変わらずだ。いい子に育ってくれた。母さん、いや陽子ありがとう」
旅館業で忙しく働きほとんど妻が幼い頃の晴明の面倒を見ていたことは晴人もよく理解している。
「いやだ、いまさら急に何を言うのよ。照れるじゃない」
晴人の胸を指でつつきながら言ったがその手を晴人が握った。タマモは目をつぶったが
「オオガミを探しにくぞ」
熱いキスを期待していたタマモは
「何よ。こんなときに、どうしたの」
「お姫様だよ」
「なに晴ちゃんに新しい彼女でもできたの」
どうしてそこに結び付けるのかわからないが
「いや、かぐや姫だ。新しい仲間ができたんだ」
「光る竹を切ったら現れたの」
「まあそんな感じだ。千五百年もユートガルトで眠っていたんだよ。そのカグヤから新しい情報が得れたんだ。オオガミの呪いも解けるかもしれない」
「あの不死の体をどうにかなるの」
「そうだ、きっと彼女を助けることでそうなるぞ、呪いの張本人ツクヨミに近づけるかもしれない」
「でもどうやって彼を探し出すの」
「探偵でも雇ってみるか」
「それなら警察に探してもらったら、あの頼りなさそうな久遠とかいう刑事さんに頼んでみるとか」
「さすがに警察は全くの他人の人探しは無理だろうが探偵を紹介してもらうか」
「餅は餅屋ということね」
「明日からゴールデンウイークまで旅館は改装工事に入るからそれは元さんとタエさんに任せて二人で動くことにしよう」
「うれしい久々に二人っきりのデートね」
「まったく、まあいいか。色々食べに歩こう」
「それはだめダイエットよ」
「あれから五キロもやせたんだぞ。少しくらい大目に見てくれよ。デートだろ」
「まっ少しくらいはいいか、何年ぶりだろうデートだなんて」
晴人に抱き着くタマモであった。
翌日、電話で久遠に相談するとわざわざ旅館まで訪ねてきてくれた。
「どうも、瑠璃の件ではご迷惑おかけしました」
「わざわざ来てくれなくとも電話でよかったんですが」
「いえいえ、お詫びと言ったところです。それに仕事があまりなくなったもので」
正直に話すのはバディの晴海がいなくては超常現象犯罪には対応できないためであった。
「それで商売敵の探偵なんか紹介してもらってよかったのだろうか」
「いえいえ、捜査の上で色々助けてもらったりしているんですよ。この三人が人探しに長けていると思います」
名刺を三枚、テーブルの上に置いた。
晴人とタマモは顔を見合わせた。
「この人にするよ、それでこの住所はそのまま行っていいのですか」
「えっよりによってこの人ですか・・・あまりお勧めできないんですけどすごく有能な人ですが」
「刑事さん、何か問題でもあるの」
タマモが笑い顔で聞いた。
「頑固というかあまり融通が利かないタイプの人なんです。場所は元町の乙仲通りにある銭形ビルという古い建物で一階に骨董店があります」
「そこなら知っている。この前、買い物をした店だ。セクシーな女主人がいるところだろ」
「あなた!どこを見てたの!」
タマモが晴人の太腿をつねっている。
「そうです。そのビルのオーナなんです。彼女に聞けば探偵事務所まで案内してもらえますよ」
「ありがとう、久遠さんいろいろと教えていただけて助かります」
「いえ、お力になれてよかったです。ところで息子さんは宝蔵院君の大親友の」
「晴明はちょっと旅行に出かけているんだ。春休みだから」
「そうですか。宝蔵院君も旅行に出ているんですけど」
まさか久遠は同じ旅行に出ていると夢にも思っていなかった。
久遠が帰ると
「母さんさっそく出かけようか。もしかしたら一杯やるかもしれないので電車で行こう」
「晴人、デート中は母さんと呼ばないでタマモって呼んでよ」
「わかったわかった、タマモ、出かけるぞ」
「はい」
タマモはさっそく手を組み、べったりと寄り添うのであった。