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〇麦酒工房

 朝ごはんを食べたら京へ出発だ。迦樓夜叉(かるやしゃ)のことも心配だ。

「おはようタウロさん」

 厨房で料理人たちと談笑中だった。料理の話をするタウロは目を輝かせてイキイキしている。導魔坊の厨房では一人だからさみしいのかな。教え上手だからお弟子さん取ってみればいいのに。

「おはよう坊ちゃま、朝ごはんの用意はもうできてるだ。お昼のお弁当も皆で手伝ってくれもうやることねえ」

 もっと働いていたいようだ。

 朝ごはんはご飯と茄子のみそ汁とお漬物にいかなごのくぎ煮だ。

「いかなごのくぎ煮じゃない」

「昨日作っておいただいっぱい作ったので京でも食べるべ」

 イカナゴは小さな魚でこの時期瀬戸内海でよくとれる。煮込んだ姿が釘のようでくぎ煮と呼ばれている。家庭ではこれを煮て知り合いに配り我が家の味自慢をする風習がある。


 京に上る道は行きよりも早く昼下がり過ぎにはイロハの三人のところに着いた。ジョギング並みのスピードだ。清盛と康成は馬、タマモは二日酔いでタウロに牛車を()かせて中で寝ている。馬の二人も若干二日酔い気味で飲酒乗馬だよそれと思ったが言わないでいた。早く帰りたかった。


 蒲焼の匂いが漂っている。


「調子はどう」

 イチは「いやもう忙しくて忙しくてやっと一息ついたところです」

 それはよかった。

「清盛殿、お昼は済ませ申したが少しこ奴らの蒲焼をお食べいただけませんでしょうか」

「さきほど軽めに食べろといったのはこれを食わす為か康成よ」

「ささ、清盛殿に一杯、うな丼というものをすぐに召せよ」イロハの三人を急かした。

 自分たちの分であろう残り少ないご飯に鰻を載せ清盛に差し出した。

「うむ、腹に届くよい匂いだな」

 豪快に食らい始めた。箸をおき

「合格じゃ、(にしき)で店を出すがよい」

 イチさんたちはきょとんとしている。

出資者(スポンサー)になってくださると言っておるのじゃ、準備ができたら後日清、盛殿の屋敷を訪ねるがよい。店と住む場所を用意しておこう」

 清盛がスポンサーになって都で商売ができるなんて盗賊からの大出世だ。

「よかったね!イロハのみんな」


()()にすぐ言って子たちと早急に参上させていただきます。ありがとうございます」

「ロクさ、これからが修行だど京のお人の口はきびしいだど」

 タウロさんは弟子、何号?を励ました。

「タウロ師匠、がんばります」

 深々と礼をした。いいなこういうの大好きだよ。


 晴明神社から持ち帰った大量の書物を導魔はまだ熱心に読んでいた。

「ただいま」

 日も落ちぬ間にハルアキは導魔坊へと帰り着いた。


「ドーマさん、ヨダル老師って知っていたの」

「うむ、会ったのだな。で何と言っておった」

「ピコを進化させるのにハンニャとリンクさせろと言いてったよ」

「そうかではさっそく始めよう」

 えっすぐにって、僕の頭をダウロードしたときのようにつかんだ。


 ハンニャが一瞬ぶれたような感覚が体を走った。ピコが肩からポトリと落ちた。

「うあ!大丈夫ピコ」

 両手の上に拾い上げた。


()()()()()()()()


「うあ、ピコがしゃべった」


「ハンニャの機能の一部がピコに移管したのじゃ」

「じゃあピコであってハンニャてこと?」

「これでお前とピコのつながりも今まで以上、いやそれを超える関係となった」

「じゃあ名前もピコーニャにしようかな」


「ピコッ」喜んでいるようだ。


 なんだかすごく簡単にアップグレートできたようで僕のほうはどうなんだろう?ドーマにはまだ黙っておこう。また無理難題を出されそうだから。


「オオガミが待っておるぞ。庭に出るのじゃ」

 オオガミが木刀を振っている。見た目には力は戻ってきているようだが、もう夕方だよ。


「さあハルアキ修行をするか、今日はわしはこの鎌で稽古をつけよう」

 なるほど仮想迦樓夜叉(かるやしゃ)ってことか。華麗に鎌を振り回しているさすが武芸百般なんでもござれだ。


 間合いが遠すぎて僕の短剣では全然近づけない。逆に中に入ればいいのだろうが全く隙がない。迦樓夜叉以上に手ごわい。


「ハルアキ、わしの手元をよく見るのじゃ鎌を見ていては後手を踏むぞ」

 なるほど、鎌の鋭さが気になっていたが手元か。タイミングを見て鎌の柄をはじき懐へ・・・

「うぐっ」

 鎌の柄の部分でわき腹を痛打され飛ばされた。


「近づいただけ安心するな!鎌だけではなくすべての部分に注意を払え」


「ちょっと待って!」脇腹を押さえ立ち上がった。脇腹の骨が折れたようだ。

「脇をやったか。しばらく休憩だ」

 しばらくって骨折れてるよ。泣きそうだよ。

「ピコ―ミャ診断して」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 えー勝手に治っているの?


「気が付いたようだな。おぬしのその体にはわしの血が入っておる」

「どういうこと?」

「ユートガルトで法師様が死にそうになった話は聞いておるな。その時やむなくわしは血を呑ませたのじゃ。わしの血を受けると治癒力が上がるのだが代償に狂戦士(バーサーカー)となってしまう。法師様はあの時、からくりの体に精神を移しておった故、その(とが)を免れたのじゃ」

「そうなの、そういえば小さな切り傷なんかすぐに治るのが不思議だったんだ」

「しかし、慢心してはならんぞ。あくまで補助代わりだ、わしのように腕をつなげたりは瞬時にはできないぞ」


 休んでいる間、オオガミさんは鎌を振り回し型を見せてくれている。なるほど、だんだんと技が見切れてきた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 (せん)の見切り?

<一度受けた技に対して対応力が上がったんだよ>

 お!ピコーニャの喋りが滑らかになってきた。


「いけるかハルアキ」

「ハイ」まだ脇が痛いが体は動く。


 再びオオガミに挑む。今度はスムーズに内に入り込み、先ほど受けた柄を受け止めオオガミの頭に打ち込めた。もちろん後ろに下がられよけられたが「よし、今日はここまで」おゆるしがでた。


「まだまだだが、何とか迦樓夜叉対策は多少はできたようだ。明日は朝から剣を磨くぞ」

「ありがとうございました」


 やっぱり導魔坊のお風呂はいいな。このヒノキの香りで気持ちが安らぐ、でも雪見の御所の温泉の雰囲気も捨てがたいな。

「ピコ」いつの間にかピコーニャもお風呂に浸かっている、羽で湯船をつかむように隣にいる。


「ピコーニャもお風呂気持ちいいかい」

<うん、(ちち)と一緒がいい>

「父だなんて、照れるな」

<ヨダルいってたよ。父の力まだまだ大きくなるから私も大きくなれと>

「ピコーニャもっと大きくなったら僕を乗せて飛べるかな」

<うん、ピコーニャ、父と空飛ぶよ>

「楽しみだ」


「何ピコちゃんとピーピーといってるのしゃべってるみたいだね」

 タマモがいつの間にか横にいた。ほかの人にはピコーニャの声聞こえないようだ。

「賢くなったからピコーニャと名前変えたんだ」

「ふーん、でもピコちゃんでもいいじゃない」


「ピコ」


「ほら、でさあ今度いつ福原行く?あのビール美味しかったから」

 わざわざ目的地にしたいほどの旨さ三ツ星ってことあのタウロビール。

「タウロさんに頼んでこっちでも作ってもらうようにお願いしてみるよ。でもこの前みたいに飲み過ぎないでね」

「ハルちゃんやっさしーい」

 しまった抱き着く口実を与えてしまった。

「さあ、授業があるから先に上がるね」


「ハルアキ、踊りの稽古だ」

 やはりそう来たか。扇を持たされあれこれ手取り足取り指導が始まった。これはそう難しくなかったのだが、歌を詠む授業は難しかった。言葉の意味をとらえることが重要らしい。すべての言葉はそうなるが故の韻があるそうでそれが言霊という力を引き寄せ呪文の効力を上げるということらしい。平安の言葉でなくとも僕の使う現代語でも同じように言霊の力を引き出せる。

「よかった百人一首のような歌を作らないといけないと思ったら、僕の歌でいいんだね」

「そうじゃ、毎日考えておくように、呪文の効用に合う歌を見つけるがよい」

 それが難しいんだけどなぁ。

「ほんの一言付け加えるだけでも良い。この間の土壁を見たであろう。ただの土壁でさえあれほどの力を発揮するのだ」

「タマモさんは何も言わなくてもモノを動かしたりしてるけどあれはどうなの?」

「あれは異なる体系の力じゃ、妖狐の一族の使えるサイコキネシスといった精神科学の理なのじゃ。われら人の使う呪文とは根本が違う。どちらかというとその力と対抗するため生み出されたのが呪術という」

「へぇ」といって扇を少しだけ浮かせてみた。


「ハルアキ!お前何を!その力どうしたんだ」

「いやタマモさんにお風呂で教えてもらったらできるようになったんですけど」

 ドーマにもできるものだと思っていた。

「まったく驚かしてくれる。おまえは大した子だ」

 感心して黙り込んでしまった。


「その力もっと修練をして自分のものにするのじゃ、きっと役に立つ」

 これがヨダル老師の言っていた力なのかな?

「どうすればいいんでしょう」

「今度はタマモが先生じゃな」

 そうなるかやっぱり、ビールで釣って教えてもらうか。そんなことしなくても大丈夫だけどね。

「今日はここまで飯にしなさい」

「ありがとうございました」


 厨房へ飛んで行って今日の献立の確認だ。そこにはタウロ以外に二人の男の人がいた。誰だろう?こちらを見たと思ったら、

「先だっては助けていただきありがとうございました。ちゃんとしたお礼もせずに失礼しました」

 あっ酒肆(しゅし)で暴れていた酔っ払いさんたちだ。

「あれから、こちらに伺いお礼をしようと思ったのですがお出かけとのこと、法師様が仕事がなければここで料理人の下働きをしてはどうだとありがたいお申し出をいただきお帰りをお待ちしておりました」


「また弟子ができただ」

 まんざらでもないタウロ、ドーマがそう言ったからにはきっと料理人の資質を見出したはずだ、心配はない。


「よろしくね」

「喜六です。よろしくお願いします。坊ちゃま」

「坊ちゃま、清八と申します。喜六ともども以後よろしく願います」

 またナンバーネームだ。六と八はもういるので「キィさんにセイさんですね。頑張ってタウロさんから学んでください」

「喜ぃ公、清やん、さあさあ晩飯作るだ」なんか落語に出てくる人たちみたいだな。

「タウロさん何作るの」

「福原で鯛を昆布じめにしたものと、タコとか大貝を持って帰ってきただで、鯛はちらし寿司に、タコと大貝は宋人の市場で買った豚のバラ肉があるのでお好み焼きでも作るだ」

 大貝か、神戸ならではの食材だな。つぼ焼きはサザエの殻の中には大貝の身が入っている。大あさりというくらい肉厚の身はいい出汁がでる。お好み焼きにの具にも最適だ。

「そうだ、冷凍庫に牛のスジ肉がまだ残っていただ、これも使うべ」

 冷凍庫?

「冷凍庫なんて導魔坊にあるの」

「んだ、法師様が魔石に呪文を込めてカチコチに凍らせる魔法の部屋があるだ」

 あの魔石はそんな風に使えるんだ。さすが錬金術師でもあるドーマさんだ。ごはん食べないのに食に対するこだわりが異常なほどに強いな。不思議。

「さあさあ食堂で待ってくろ」


 ビールの話するのを忘れていた。

 みんなはもう食堂に集まっていた。清盛もいる。ドーマは書物を読んでいる。 タウロと喜ぃ公、清やんが料理を運ぶ。

「うあ!でっかいお好み焼き」

 たっぷりソースのかかった直径50センチはあるお好み焼き葵がピザのように切り分けそれぞれの前に運ぶ。

「ミックスモダンじゃん」

 そばに大貝、タコとすじ肉と蒟蒻を甘く煮込んだスジコン、ぼっかけとも地元では言っていたけど、豚バラが下が見えないくらいのっかている。

「坊ちゃんこれも」

 九条ネギを刻んだものを上にかけた。珍しいな鰹節と青のりをかけるのが普通だけど、鰹節が躍るのも食欲を刺激する。

 パクリとお好み焼きにかじりついた。ふわふわのトロトロ、口の中にほのかに出汁の味がする。ネギはポン酢と絡めてあるのかあっさり感をあたえる。

「旨い!」

「トマトが手に入ったでソースもいい感じでできただ」

 ソース焼きそばも運ばれてきた。

 ちらし寿司は錦糸卵にミョウガ、大葉を昆布じめの鯛の上にかけ、鯛のピンクの身が華やかだ。


「それと大人のみんなにはこれだ」

 木樽を担いでタウロがやってきた。

「清盛殿、水のよい大山崎で作っておる麦酒(ビール)じゃ。内緒にしておいたがこれも交易に使ってはいかがじゃ」

 ドーマが清盛に言った。

「おお法師殿、福原でも呑んだが美味かったぞ。これは高く売れそうじゃ」

 大山崎か、昼ご飯を食べた後タウロさんが寄るところがあるので先を行ってくれとわかれたのはこれを運ぶためだったのか。喜んでいるのはもちろん

「いやっほう!このお好み焼きと会うわね。タウちゃん早く頂戴よ」

 タマモさんはご機嫌だ。ここだ!

「ねぇタマモさん、あの力僕にもっと教えてよ」

「あら、いいわよ。私は優しく、お・し・え・て・あ・げ・る」

 ちょっと不安。

「なんだあの力って」

 オオガミが聞く。

「ひ・み・つ・」

 タマモが思わせぶりに答える。それがいい秘密兵器でオオガミさんを驚かすんだ。

「清盛さん、康成さんは」気が付くと康成がいない。

「あやつはしばらく残業じゃ。今回は荷が多かったので書類が溜まっておるのじゃ」

 うわ、結構ブラック企業、気の毒だな。後でビールと焼きそばを差し入れしてあげよう。


 ちょっと疑問があるので

「ドーマさん」

「んっなんだ」

「どうしてお食事をとられないのにこんなに美味しいもの追及しているの?」

 どうにも不思議だお金のためだけでないようだ。

「わしとおぬしは縁の糸でつながっておると言っておったじゃろ」

「うんそれが」

「じつは五感の情報は少しだが、伝わるのだ。おまえが美味しいものを食べればわしも食った気になるということだ」

 僕のためだけじゃなかったのか、このグルメな毎日は

「あとはあのビールも味わいたいとこだが、この世界では元服は16歳だ。そうなったら一緒に飲むのが楽しみじゃ」

 なんだよ父親が息子と一緒に呑むの楽しみしてるようじゃん、変なの。

「あーら、私も楽しみ」乗っかるタマモさん。

「もう、勝手な妄想しないで、お酒は二十歳になってからだよ」

「かたいのね、ハルちゃん」もうだいぶ呑んでいるようだ。


 今日も楽しい夕餉に夜は更けていくのだった。

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