◆ヒポグリフ討伐
「母さん、晴明は元気にやっていたぞ。今日はトルクメニストの冒険者ギルドに登録してクエストに出ていったぞ」
「もう、なんで私を呼んでくれないの、晴ちゃんにちゃんと言っておいてよ」
タマモはここのところお呼びがないので少々いらだって晴人のダイエットに厳しくあたっているのだった。晴人もたまったものではない。
「それより晴明に言い忘れてしまった。道真のことを」
「そうよね。白鳥さんが過去の記憶を思い出し始めてるってびっくりよね。けっこう悩んでるみたいだったけど」
「酒を呑みながら思いつめたように言い出すから俺も驚いたよ。なにやら聞けば俺と晴明の精神が戻ってきた同じタイミングくらいだったな、なんらかの影響が出たのかもしれない。幸い俺がドーマハルトとはまだ気が付いてないようだけどな」
「異国のような風景で春奈ちゃんも一緒だったとか。ベールの記憶みたいだったわね」
「やっかいなことだがしばらく様子を見てみるか」
晴明たちは父をメダルに戻してヒポグリフの出没する森の奥へと進んでいた。
「リリと天鼓君は宿屋で待機してもらっててよかったんだけどな」
「なにを言うんだ晴明君、せっかくの機会なんだよ。ヒポグリフの生態を観察できる。リリは僕が守るよ。リリ、僕から離れちゃだめだよ」
「テンテン、わかった」
リリは宝蔵院のうしろにしっかり張り付いていた。
「この辺が狩人の待機所なのかしら。あっ、あそこに小屋があるわ」
晴海が指さしていた。
「この地点で間違いなさそうだね。みんな警戒してね」
「グリフォンと馬の特性を備えてるなんて変な生き物よね。グリフォンは馬の肉を好んで食べる天敵みたいな関係なのに」
晴海はゴスロリ姿に変身して身を深くかがめ来襲に供えた。
晴明が「来るよ二匹だ。ヤーシャさんと僕で動きを止めるから晴海、頼んだよ」
駆けだす晴明とヤーシャ、叫び声をあげて森の茂みから飛び出してきたヒポグリフが二人に襲い掛かる。
それぞれ巧みにくちばしでの攻撃をよけて刃で傷を与えながら足止めをしていた。
後方から晴海は青龍の弓でねらいをつけている。
晴明はヒポグリフに体当たりをして動きを止めた。その瞬間、眉間を矢が突き抜いた。 続いてヤーシャが闘っているヒポグリフに弓を放った。
三人はあっという間に二匹の獲物を仕留めてしまった。
「このチームなら何匹でも行けちゃうわね。魔石を取り出して成果品にするんだったわね」
「僕がやってきます。何もお役に立てないんで」
ヨシュアがナイフを持ってヒポグリフの死体へと走っていった。
「晴明、ヨシュアも戦いに加えてやって自信をつけさせてよ」
「そうだな。戦闘力はあるのにどうやって自信をつけさせればいいのかな」
「ああいうタイプは追い詰めると力を発揮するだろう」
「ヤーシャさん、危険じゃない」
「お前は晴海と二人で、私とヨシュアを組ませてもらえるか」
「それでいいんじゃないか。ナイトを召還してくれないか晴明君、僕とリリはそれで十分だよ」
「わかったよ。ノウマク サンマンダ ボダナン バク!ダッシュフォー、ナイトの化身」
真っ赤な四輪駆動車が現れた。
「ナイト、人型に変形してリリと僕を守ってくれ、僕が攻撃を担当するよ」
「ハイ、テンコサマ」
目を閉じて気配を探っていた晴明が「ヒポグリフの気配は学習したよ。こっちとあっちに一匹づついるからさっきのタッグで別れていこう」
「私も戦闘に参加するのか」
ヨシュアが心なしか小さくなって弱々しい声で言った。
「あゝ、私についてくるんだ」
ヤーシャは先に歩いていった。
「だいじょうぶだからだからヨシュア、ヤーシャさんについていきなよ」
背中をポンと押した。
「本当に大丈夫なのかしら、彼女のスパルタ特訓についていけるかな」
「かなり震えていたけど、僕らも行こう」
晴海と晴明は反対方向へ進んでいった」
「テンテン、ヨシュアがんばるといいね」
「僕たちはここで待って居よう。もしヒポグリフが来たらすぐに僕のうしろにしがみつくんだよ」
既にリリは宝蔵院のうしろにしがみついていた。
「まだ大丈夫だよリリ、算数のお勉強しようか」
「うん」
地面を黒板代わりに二人は勉強を始めた。
しばらく、その勉強の様子を眺めて傍らに座っていたナイトが突然すっくと立ちあがって
「テンコサマ、ナニカヒライシテキマス」
宝蔵院は杖を構えてその物体を目視しようとした。リリがしがみついた。
ヒポグリフが飛んできたのであった。
「よし、あれを試してみるか」
宝蔵院は地面に魔法陣を描き始めた。
「闇に眠りしものよ。わが名、天鼓が命じる!その力を我に」
杖を突き立てるとスケルトンが三体あらわれた。
「すごい、テンテン、あれは誰?」
「この地で朽ち果てた骸さ、僕たちを守ってくれる」
ヒポグリフは地面に降り立つと宝蔵院目がけ突っ込んできたが、ナイトが捕らえた。
三体のスケルトンもしがみついていく。
宝蔵院はさらに杖を振り上げ呪文を詠唱する。
「地の聖霊よ。その営みを荒ぶらせわれの助けとなれ!土槍!」
土中から無数の植物の根が槍のようヒポグリフ突き刺さった。
「やった―テンテン!」
「これで三匹目だよリリ、数えたかい」