◆シロクマ
迎賓室に案内され晴明はタマモから晴人へとメダルをチェンジした。タマモは晴明に抱き着きほっぺにキスをして去っていった。
「相変わらずだなタマモは、明るくていい母だな。しかしドーマよお前は平安に戻ると言っていたんじゃないか」
「やっぱり寂しくて現代に戻ったんだ。まさかタマモと結婚してたとは最高のエンディングだったんだがな。ところでツチグマ、こちらの世界で死んだ場所で領主さまとはどういうことだ。オオガミはどうした」
晴人はオオガミの行方が気になっていた。
「あいつは五百年前の月の統合の時、ゼブル教を追って俺の息子とそっちの世界へ旅立った」
「もしかしてこの子ですか」
晴海は日輪と月光を召還して、晴海は二体に手のひらを向け
「オン ア・ラ・ハ・シャ ノウ!」
パシリと手を閉じた。二体が重なったと思うと一本の角をはやしたツキノワを呼び出した。
「おお、ツキノワ」
シロクマはきつく抱きしめた。
「父ちゃん、こんなに痩せてしまって、ただいま」
ツキノワも歳を取った父を抱きし返した。
「ツキノワ、オオガミさんと一緒だったんだ」
「うん、伊賀の忍者として木下藤吉郎さんて人に使えて銀羽教と戦ったんだ」
「えっ、もしかしてオオガミさん赤い仮面してたの」
またしても晴明の妄想が広がったのであった。
「晴明、そのくらいにしておけ、つまりオオガミはわれらの世界にいるということか」
「そうだろうな。五百年くらいあいつにとっては一瞬だ。ぴんぴんしているだろう」
まさかこんなに早くオオガミの情報が手に入ってしまうとは思ってもみなかった晴人と晴明であった。
「しかしお前たち親子とはどこまで縁が繋がっているんだろう不思議なもんだな。それと天鼓とヤーシャ、わかるぞお前たちまで」
宝蔵院とヤーシャはシロクマを見つめた。
「どういうことですかシロクマさん」
「いや生まれ変わったお前たちに会えるとはな。幸せそうにしていて安心したぞ」
「僕とヤーシャのことを知っているんですね。でもこれ以上話をしないでください。きっとそれが僕たちの幸せだと思うんです」
「すまなかった。年寄りのたわごとと捨てておいてくれ」
「シロクマ、トルクメニストのことをもっと教えてくれ」
「そうだったな。平安からこちらに戻った俺とオオガミはお前さんの統合したユートガルトの平和のため陰ながら支えてきたが、五百年が過ぎ、大の月セレーネに小の月ヘカテー吸収された後、エンドワースに魔界の入り口が現れた。そいつを閉じるためにオオガミと俺は手を尽くして閉じはしたが魔族が多く満ち溢れる世界へと変貌しいった」
「それがこの世界が文明を失った原因か魔族は暴れなかったのか」
「侵略よりも浸食が始まって、すべての一族の混血化が差別も貧困もなくしていった。多様性ってものがなくなった結果、文明は衰退した。皮肉なものだがそれが平和へと変貌した」
「強力な支配者がいなかったんだな。しかしそれが平和と言えるのだろうか?シーモフサルトは捨てられた土地へエンドワースはトルクメニストに名前を変えて、ユートガルトはどうなったんだ」
「お前さんが作った隧道の先はハルトの街へと名前を変えて少数ながら人族の純血種と龍族が街を築いていった」
「龍族がいるのですか」
ヨシュアは驚いた。龍族はエヴァ女王の元にいる者たちだけだと教えられていたからだ。
「龍族だけは他の種族と交配ができなかった、卵で生まれてくるからな。そのあたりが人族に受け入れられたんだろう。かなり保守的な街だ」
「簡単に入れないということか」
「いや、お前たちのチームを見てみろ人族と龍族じゃないか。警戒は多少されるかもしれんが入国は認められるだろう」
「それなら安心だ。ドーマはどう思う」
「争いごとがなくなって平和になったことはいいことだと思うけど、何かが違う気がするんだよなぁ」
「晴明君、僕が仮定することなんですけどヘカテーの月は繁殖力と共に向上心も衰退させたんじゃないですかね」
「天鼓君、そうだそれだ!誰もが今日より明日への目的がなくなったんだ。新しい発見を見つける好奇心を持ってないんだ」
「晴明、しかしそれが持てる者と持たざる者の格差を生み出して、また争いが起こるかもしれないんだぞ」
「希望を持って、人の命の尊さを誰もが考えることを祈るだけだね」
「今日はこの城に泊ってくれ積もる話もいっぱいある」
「そうなれば宴会だね。ワクワクするな」
晴明は食事の話になるとモヤモヤとした気分がすっかり晴れてきた。
「あゝ、美味しい食事を用意するぞ。あの牛男ほどではないがな」
「それなら大丈夫です」
晴明は父からタウロへとオーディンの馬を変化させた。
「おお、タウロじゃないか」
「もしかしてツキノワの旦那様ですか」
「これは頼もしい、この者を厨房へ案内するのだ」
御付きの衛兵に命じた。
「今夜もタウロの料理が食べれるのね。楽しみ」
「きっとすごい厨房だからタウロも腕の振るいがいがあるんじゃないかな。そうだ、シロクマさんのことだからお風呂もすごいんでしょ」
「あゝ、思う存分入ってくれ」
「さあ、みんなお風呂に入ろう」
晴明はご機嫌であった。