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〇思い出の味

「今日は食事を用意する時間があまりなかったで、季節は外れているだが、鍋にさせてもらうだで」

 タウロが食堂の中央の床板をはずした。なんと囲炉裏が現れた。天井から鍋をつるすと茜に炭を(おこ)すように言うと厨房に戻りあっという間に大皿に切った野菜を盛ってやってきた。出汁を大鍋にそそぐ、みそ仕立てのちゃんこ鍋にするようだ。鍋が沸騰するまで、せわしなくいったりきたりと具材をそろえる。


 康成さんの隣に見知らぬ人がいる。横のタマモさんに小声で聞いてみた。

「オオガミだよ」

 えっハネ上がったウルフヘアーは直毛の白髪、正座してうつむいている。ぼそぼそと康成さんとしゃべっていたが、あまり触れないようにしておいたほうがいいかな。下手にからかって元気になった時の修業が厳しくなりそうなのでやめておこう。タマモさんも席を離れどこか行ってしまった。触らぬ神に祟りなし。


「さあ煮えてきただ。どんどん取っておくれ」


「いただきまーす」

 まずはよく出汁の出た汁をすする。いい味、まずはこのつみれをっと、パクリ!おおジュウシー(うずら)の身にレンコン、大葉、軟骨も入っているのか、コリコリシャリシャリ、味噌の味によく合う。薄揚げに水菜、猪肉も適度な分厚さが出汁に負けていない。まだいろいろ入っているちゃんこ感満載!いくらでも入るぞ。ちょっとご飯も欲しいな。タウロさんに頼もうと思ったら、タマモさんが一枚の皿をもって戻ってきた。


「はい、ハルちゃん」

 オムライスを差し出した。形はちょっと崩れているけどケッチャプがハートの模様にかかっている。母さんオムライスと一緒だ。

「どうしたのこれ!」

「食べさしてあげようか、ハイあーん」

タウロが答える

「朝、タエとおっかあが籠いっぱいトマトを収穫してきただ。さっそくケチャップを作っているとタマモさんがオムライスの作り方教えてといってきただ」


「そうよハルちゃんがお出かけしてから、何個も何個も作って練習したのよ、さあ食べて」

 僕を見つめている。たべにくいなあ。


 美味しい!気のせいでもなくまさしく母さんの味に近い。なぜか涙がこぼれてきた。

「ハルちゃん!泣かないでダメだったの」

 タマモさんも泣きそうな顔になっている。

「ううん、すっごく美味しいよ。タウロさんも形無しだよ」

 見るとタマモさんの指にやけどが

「『沐浴(アブル)』こんなにやけどしてまでありがとう、元気が出たよ」

 この世界へきて二週間以上たったがいろんな出来事があり夢中で過ごしたけど、ふとしたこんな出来事に元の世界が懐かしくなった。不意打ちだ。

「ありがとうハルちゃん」

 口の横にはみ出たケチャップをぺろりとなめられた。


「ハルアキ殿とタマモ殿は本当に仲がおよろしい、親子のようでござりますな」

 康成さんは酒が入り先ほどの手の件はすっかり忘れてご機嫌だ。


 囲炉裏の輪から外れ傍らで晴明神社から持ち帰った書物を読むドーマに

「ドーマちゃんと私はハルちゃんの家族なんだからあたりまえよ」

 タマモも酒が入りこちらもご機嫌だ。またドーマに抱き着いている。


「法師様、あの手を取り戻しに迦樓夜叉は、やってくるのでしょうか。恐ろしくて仕方ありません」


「康成殿、心配するなあと一週間はやつも力を使い果たしておるゆえ大丈夫であろう。その頃にはオオガミも本来の力が戻っているから心配するな」

 ドーマさんは書物を読みながら答えた。


「さようですか、それは心強い。実は清盛さまに呼ばれ大輪田泊まで明日立たねばならぬのです」


「それならば、ほれハルアキ、ご一緒して参れ、警護も修行になるだろう」

 人使いが荒いなぁ、結局休み無になっちゃた。


「私も行くー」

 タマモが嬉しそうにドーマの袖を引っ張る。

「仕方がないやつだな。おとなしくお供をするのじゃぞ」

 絶対にそれはないことを見越して言っているはずだ。


「ハーイ、お土産期待しといてね」

「タウロ、おぬしも行け。こちらは大丈夫だ。飯を食うものがおらんゆえ」

 お目付け役かな。でもタウロと一緒はうれしいけど。


「よーし、ぼっちゃま!美味しい海の幸でごちそう作ってやるだ」


「いえーい!」

 待ってました。ちゃんこ鍋も食べ終わった。


「ごちそうさまでした」


 さあ、お風呂入って寝よう。

「康成さん!お風呂入っていく?」

 タマモ避けの保険に誘ってみる。


「いえ、私はここで失礼つかまつる」

 ちぇ。

タマモさんが「じゃあ私と一緒に入ろうか」

 そんなことがと康成さんは後ろ髪惹かれながら帰っていった。仕方がないなオムライスのこともあるし。



「タマモさんの力って僕も使えるの?」

「さあどうだろうね。あれは本来持ってる私の力だからハルちゃんが修行して身に着けてるスキルとは違う力なの」

「ふーん」

「念じるというかイメージしてこんな風に」

 お湯がボール状態で浮かんでいる。パッシャと僕の顔にぶつけてきた。

「やったなぁ、イメージかぁ」

 試してみると、湯面から丸いボールがせりあがってきた。すぐにポッシャと落ちてしまった。

「あら、やるじゃない、さすが私の子供ね」

 子供じゃないんですけど・・・なるほどこういう概念の力もありなのか、ジェ何とかの騎士みたいだな。

「タマモさん頭洗ってあげるよ」

 オムライスのお礼だよと言いながら、キツネ耳をよく見てみたいだけだけど。

「あらうれしい」

 なるほどこうなっているのか本当に頭の上に生えてるよ。肩のほくろが目に入った。母さんと同じ場所だ。背中に負ぶわれているといつも見つめていたほくろ、偶然だろうがこの世界のお母さんのしるしかな。頭からバッシャとお湯をかけた、いつものお返しだ。

「こら!耳に入ったじゃない」

「はっはっは」


 今日も一日色んな事があったな。ピコ、お休み。



愛宕山の山荘


 暗いその部屋には何組の男女が裸で抱き合っている。むせかえる体臭なかの一組の間に迦樓夜叉も裸でいた。

「腹立たしい!あのキツネ娘に白面の法師!わらわの右腕を切り落とした男もそうだがあの小僧も、憎しや憎し!しばしのあいだ待っておれ」

 抱いている女の乳房に舌なめずりをした。

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