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◆ドラゴニア

「洞窟に入られてしまった」

 真っ黒になった画面を見つめる宝蔵院

「晴明なら何とかするでしょ」

 残された四人は成り行きに任せるしかないのであった。


 洞窟を奥へ奥へと進むヨシュアの後を晴明たちは行く。

「父さん、なんだかうまくいったね」

「ああ、この世界の謎も少しはわかるかもしれんな」

「首を下げてお目通りするがいい。わが母、偉大なエヴァ女王の御前だ」

 アルテミス大聖堂と同じ様式の広間へ通された。


「頭をあげなさい。人族のものよ」

 威厳に満ちたその声に晴明たちは顔をあげた。

「うわぁ」

 晴明は驚き思わず声を上げた。涅槃仏(ねはんぶつ)とも見まごうほど巨大なトカゲ、むしろ恐竜と言ってもいいほどのエヴァ女王がそこに横たわっていた。

「すみません。声なんかあげて晴明と申します」

「晴人です。女王陛下」

 片膝をつきさらにもう一度お辞儀をした。晴明もあわてて真似をした。

「良い良いそんなにかしこまらなくとも、ヨシュアがここに連れてきたということはおぬしらに害がないと判断したのじゃろう。それで何用じゃ」

「寛大なお心に感謝申し上げます。質問ばかりになると思いますがよろしく賜ります」

「答えられることはお話しして進ぜよう。だてに長生き千年以上も生きておらぬゆえ」

「そんなに長生きを・・話が早そうです。まずは月のことをおたずねしたい。いつから二つの月が一つになったのか」

「おぬしこのアルテミスの民が生きる世界に二つの月があったことを知っておるのか。それは不思議なことだな」

「やはり二つの月、セレーネとヘカテーはあったのですね」

「二つの月の物語については知っておるか」

「いえ、初めて伺います」

「わしら龍族と蠅の王との関係から始まる物語じゃ」

「ベルゼブブですね」

「その名をたやすく口にだすでない。きやつのせいでわれら一族は暗い地下深く幽閉されたのじゃ」

 女王の語る物語りは、千年以上前の戦いの話だった。蠅の王の軍勢に人族は壊滅状態であった。龍族は蠅の王を助け戦っていた。そこへアルテミスが加護する勇者が蠅の王を倒して地下深くの迷宮に封印をした。アルテミスの封印だった。龍族はアルテミスから罰を受け大の月セレーネから小の月ヘカテーを生み出し、その月の光の下では龍族が地上で活動できなくなったという話だった。

「その小の月が五百年前に再びセレーネに統合され、われら一族の封印が解けたのじゃ」

「なるほど、それで龍族が地上に戻れたわけですね。確かにあの二つの月は五百年前に衝突の軌道にありました。それはすれ番う程度だったはずだったはですが融合するとは」

「おぬし何者じゃ、そんなことを知りえていたとは」

「女王陛下にならお話ししましょう。私は千年前にここユートガルトに転生した転生者でした。今はこの時代に戻ってきておりますが」

 晴人は打ち明けても問題はないと判断した。

「この地下の帝国に希に紛れ込んだ人族から話を聞いたことがある。確かドーマハルトという王がいた時代じゃな」

「父さんがそのドーマハルトです」

「なんじゃと!確か蠅の王を復活させようとしていた国をうち滅ぼした王ではないか。われら一族の協力者ではないか。ヨシュア、聞いたか」

 思わぬ出会いに驚く女王であった。

「それで女王、人族の衰退はどのようなことなんでしょう」

「あれはアルテミス様の計算違いであろう。ヘカテーの月の光は人族に豊穣を及ぼしておったのじゃろう。子孫の繁栄が滞るようになった。人口減少がその理由だ」

 なんと当たり前の理由であった。子供が増えなければ衰退して仕方がない。

「それで獣人や魔族との混血が進んだんですね。それで昔エンドワースと呼ばれた地域が魔族であふれているということは」

「それは私が説明しましょう」

 ヨシュアが説明しだした。

「その場所は今、トルクメニストと呼ばれています。魔界との通路が常に開いた場所になっています」

「昔シーモフサルトにあったものだな」

「父さん、何のこと」

「シーモフサルトの城の地下に魔界への通路があってそこからマサカドは兵士を呼び出していたんだ」

「その地獄の大穴も月が一つになった時から生じたものだ」

 女王が補足した。

「すべては一つの月の功罪か、龍族の民には恩恵を人族には弊害をか。ところで今はこの国を何と呼んでいる」

「ドラゴニアだ」

 ユートガルトの変貌の謎が解けた晴人、冒険の困難さを感じるのであった。

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