◎フィナーレ
からくり兵を見た晴明は無意識に釣竿を霞に構えた。とたん平安時代での記憶が激流のように流れ込んできた。めまいを覚えたが
「父さん、母さん、早く逃げて僕がやっつけるから」
「ダメ!!何を言ってるのハルちゃん、あなたも逃げるのよ!」
聞いたこともない大声で母が叫んだ。
加速
修行をしていない普通の中学二年生には何の変化もない。
「だめだ。体が思うように動かない。呪文はどうだ」
あまびこの
おとをまゐらすわりなしの
さがなしものにさながらうす
雷撃
小さな火花がちょっとパチパチとなった。
「やっぱり逃げよ」
きびすを返し父と母を押してからくり兵から逃げていく。
「ハルちゃん、あれは何、母さん聞いてないわよ」
「本当はもっとすごいんだけど、話せば長くなるから早く逃げよう」
駐車場まで三人は逃げた。なおもこちらに向かってくるからくり兵だ。
「車まで走れ!キーはどこだ」
ポケットを探る晴人に
「あなたこれ」
陽子がキーを渡す。目の前の車にミサイルが撃ち込まれた。
陽子をかばい抱きしめる晴人、眼鏡が飛ばされている。
「くそお!ローンがまだあるんだぞ」
「あなたそんなことを言ってる場合じゃないわよ」
晴人は急にひざまずき頭を押さえている。
「あなた、どこか打ったの」
心配そうに見つめる陽子に
「その陰陽の面をよこせ」
ひったくるように面を取り顔に付けると
解凍
古びた仮面が輝きだして真っ白な姿になった。
再びミサイルが三人を襲った。
土壁
ミサイルを防いだが破片がハルトの頭部へ当たった。
「ちぇ、一瞬遅かったか。晴明この面を被れ」
晴明に陰陽の面を渡す。
「父さんどうして?」
「早く」
いわれるまま面をかぶると魔法力があふれ出してきた。
「こっちへおいで、大丈夫だよ」
額から血を流した晴人が倒れている陽子へ手を伸ばした。
震えだす陽子
「怖がらせてしまったな。あとで説明する」
首を振る陽子
「晴明!あの技だ共に舞うぞ」
何が起こったかわからずにいる晴明は父に従った。
からくり兵を前にともに舞う親子
あしびきの
みねにつもりしそのここら
わがしるしをしめし
われなしちからを
空間
二人同時にからくり兵に空間断裂を放った。
跡形もなく消え去った。
しばしの静寂の中、晴明が声を出した。
「どうして父さんがドーマさんみたいなことをできるの」
「晴明、黙っていて悪かった。ずっと一緒にいたんだ」
「つまりドーマさんが父さん」
「お前を送った後、やはり寂しくなって自分もこっちの世界に送ったんだ」
「あの陰陽の仮面は」
「何かのために魔力を圧縮して詰めて置き、手元に戻るように術をかけておいたんだ。おかげで助かった」
「母さんになんて説明しよう。驚いただろうね」
二人は陽子の方を見た。
ぼろぼろと涙を流してこちらに駆け寄ってきた。
「悪い悪い、陽子、あとでちゃんと説明・・・」
言いかけたが彼女はいきなり飛びつき晴人と晴明をきつく抱きしめた。
「ハルト、ハルアキ、二度と会えないと思ってった」
陽子はタマモへと変化した。
「タマモ!」
「タマモさん!」
「二十年前に石化を解いてもらってそれから、それから」
涙で声にならない。
晴人も晴明も涙を流している。
「まさか、タマモにもう一度会えるとは、しかも妻になっていたなんて」
「本当に母さんだったんだね」
「あっ、痛たったった。普通の中年にはこたえたな」
「僕も筋肉痛だよ」
「もう二人とだらしない。特に貴方はダイエットよ」
「まいったなあ。ジムでも通うか。晴明もどうだ」
「遠慮しとくよ。こんなこともう起こらないよ」
「わからないわよ。ハルちゃん。三人でまた冒険するかもよ」
「えー勘弁してよ」
三人で笑い合った。
パトカーや救急車のサイレンの中、三人は目立たぬように静かに保険会社の手配した代車を待った。
気が付くと晴人とタマモは激しいキスをしていた。
「まったく、ラブラブ感が倍増しちゃったよ」
「あのーお取込み中すみませんゴラン保険のものですが代車をお届けにここにサインを」
車に乗り込んだ。
「さあ、家に帰ろう」
不思議な家族の物語は終わった。
のであろうか・・・