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◎有朋自遠方来 不亦樂乎

 旅館の居住区の食堂で八雲親子は三人で食事をしていた。しばらくは去年の感染症の影響で客足が遠のいていたから三人で食事をとる機会も多かったのだが、瑠璃峡での出来事から数週間ぶりも揃って食事をしていた。

「ねえ、母さん、どうやってあの石化した状態から元に戻れたの?あの時は悲しくて悔しくて何も考えられなかったんだよ」

「私も千年間も時が過ぎ去っていたと思わなかったわ。そのことが分かった時はハルちゃんもハルトもいない、みんなもいないことに絶望しちゃったわ」

「俺もタマモがあんなことになって胸の中にぽっかり穴のあいた気持になった。平安時代に一人残ったことに後悔して陽子に一目会いたくなって現代に飛んだんだ」

「あら私のために戻ってきてくれたのうれしい、大好きよ晴人」

「もう話を脱線させないでよ」

「そう石化を解いてくれたのは阿部野陽子さんという陰陽師で妖怪のお祓いの仕事をしていた同い年の女性よ」

「母さんの旧姓じゃないか。どういうことだ」

「彼女は病気で余命が少ししかなかったの最後に自分の戸籍を使って自由に生きていけといってもらって現代に暮らし始めたわけ」

「俺と出会う前の一年間その人と一緒に居たんだな」

「ええ、二人で妖怪のお祓い業をしていたの」

「妖怪なんて現代にもいるの平安時代だけの話だと思っていたよ」

「私も孤独でムシャクシャしてたから暴れられるだけでよかったのでよく事情は知らないけど、人を妖怪化するメダルを配っていた人たちがいたみたいなの」

「ひどい人たちがいたんだね。みんなやっつけちゃったんだよね、お母さん」

「それはわからないわ。陽子さんが死んじゃって、そのあとは仕事を探して住み込みで働けるとこ探してここに来たから」

「そうか面接のときえらく悲しそうで暗い感じだったのはそういうわけか」

「それで晴人さんに出逢って恋に落ちたのよ」

 晴人に抱き着いてデレデレだ。

「もう、息子の前であんまりいちゃつかないでよ」

「あら、昔も同じことしてたよ」

「母さん、タマモさんの地が出てき過ぎ、今までの母さんでいてよ」

「だって、あのハルトだと思うと気持ちが止められないのよ」

「まあ、母さん後で()()()()続きをしよう。しかし妖怪メダルとは物騒なものが現代にもあるんだな」


「その悪い人たちがからくり兵で僕たちを襲ったんじゃない」

「何を言ってるんだ晴明、ただの温泉旅館を営む家族だぞ。意味が分からん」

「でも怖かったわ。からくり兵じゃなくて、あの時みんなを守るために戦うこともできたけど、それをしちゃうと二人が私から離れていってしまうじゃないと考えると怖くて動けなかったの」

「昔のタマモさんだったら考えられない悩みだね。すぐ飛び出していきそうだもん」

「私も結婚して、こんなかわいい一人息子を育ててきたからね。()()ということを学んだの」

「ははっはっ、俺の一人娘の子育てが優秀だったからだな」

「もう、父さんたら」

 また始まりそうだ。

「ストップ!イチャイチャしない」


「だんなさま、ご歓談中申し訳ありませんが警察の方がお見えです」

 従業員の仲居が告げてきた。

「なんなんだ。瑠璃峡の事件のことか」

 あわてて立ち上がり旅館のロビーに向かって行った。晴明も気になりついていった。


 ひょろっとした刑事と痩せた少年がロビーにいた。

「こんな時間にまことに申し訳ありません。県警の久遠(くえん)と申します」

「ああ、白鳥をよく訪ねてくる刑事さんだね。今日はお泊りになられてないよ道真は」

「いえ、瑠璃峡の件でお伺いに来ました」

 父親の影で見ていた晴明はやっぱりと思ったが、一緒に居る少年をよく見ると。

「もしかして、天鼓君かい」

「覚えていてくれたんだ。晴明君久しぶり」

「何言ってるんだよ。すごい活躍だよ天鼓君、タイムズの表紙になって、記事も呼んだけどびっくりだよ」

「晴明君のおかげだよ。背中を押してもらわなかったら何も変わらなかったよ」

「君が晴明君か、まさかこの旅館の子だったとは」

「それで久遠刑事さん瑠璃峡の件とは」

「お詫びにやってきたんです」

「お詫び?」

 晴人と晴明は顔を見合わせた。てっきり彼らがからくり兵を倒したのがばれたと思っていたのだった。

「実はあのロボットに被害にあわれた人達にお詫びをして廻りたいと宝蔵院君が言うもので、リストに沿って順番にこうして廻っているんです」

「それはわざわざ御足労様です。私たちは大した怪我もなく車は保険で何とかなりましたので」

「どうして天鼓君がお詫びを?」

「晴明君、僕のミスなんだ。まさか再起動するとは思わずに修理してしまったんだ」

「あんなオーパーツを修理したというのかい!君は噂通りの天才だな」

 晴人は驚いていたが、からくり兵が悪意を持って襲ってきていたことでないことに安堵していた。平安時代での生活、闘いの日々には戻りたくないのであった。

「突然自爆してしまったということなんですが晴明君のお父さん、何か見てませんでした」

「さあ、まったくわからないですね」

 ここはしらを切るのが得策であると考えた。われらが倒したといったところで表彰状がもらえるわけではない厄介ごとを増やすだけである。

「そうですか。残骸を調べると最初に壊れたときと同じ外部からの力だと思ったんだけどな。困ったな原因がわからない」

 首をひねる宝蔵院だが、晴明は自分が二度も破壊したことを言えずに悩んでいた。親友が困っているのを見過ごすことができない性格だった。


「それでは本当に申し訳ありませんが失礼させていただきます。宝蔵院君行こう」

「あっ天鼓君、また遊びに来てよ。連絡先を教えて」

 二人は連絡先を交換した。


「やれやれだな。晴明、二人で倒したことは秘密だぞ」

「ううん、わかったよ」

「なんだか納得のいかない様子だな。自慢したかったか」

「ちがうよ。天鼓君をだましているみたいで後ろめたいだけだよ」

「大事な友達なんだな。それでも私たちのことは隠し通さないと厄介ごとに巻き込まれるぞ」

「わかったよ。がまんするよ」

「それでいい、それでいい」

 親子は食堂に戻っていった。



「宝蔵院君のそんなうれしそうな顔を見るのは初めてだな」

「だって、晴明君は変わらず晴明君だったんだもん。でもどうしてあれがオーパーツって知ってたんだろう」

 子供らしい一面を始めて見せた宝蔵院だった。

「近くまで来たから晴海様のところによって行こうか」

「そうですね。それもいい」


「ええっ!晴明の所へ行ってきたのどうして連れて行ってくれなかったの久太郎!」

 晴明と話したかった晴海であった。

「水無瀬さん、今度三人で会いましょう。同級生同士」

「天鼓くん、絶対よ。二人きりだと恥ずかしいから」

 二人の運命が交錯するときはもう間近であった。

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