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〇ダ・カーポ

 その夜、ドーマはハルアキの体を出て元のからくりの体へ戻った。

「ハルト、ハルアキは」

 オオガミがハルアキの容態を聞いた。

「しばらくすれば目を覚ますであろう。ところでオオガミ、呪いは解けたか」

「どうだか、何も変わりはしないだが」

「そうか、呪いが解けたら灰にでもなるかと思っていたぞ。はっはっは」

「バカなことを言うな。まっそれでもいいと思っていたが、今は少し違う」

「呪いって何のことだ?」

 槌熊が聞いてきた。

「あゝ、俺は死ねない体という呪いを受けているんだ。よく覚えていないが女のせいで」

「よほどひどいことしたもんだな。女の気持ちもわからない木偶(でく)の坊だな」

「俺は木偶(でく)だが女の気持ちはよくわかるぞ」

 からくりの自分の体を揶揄(やゆ)してハルトが答えた。

「ただ、今は風呂に入って一杯酒でもやりたい気分だ」

「オオガミ、どうしたんだ。それじゃあ三人で風呂でも入るか」

 ドーマは人化の呪符を張りハルトとなった。

「清八、喜六、晩酌の準備を頼むぞ」

 師匠をなくして落ち込んでいた二人に仕事を与えた。

 ヒノキ風呂に三人は浸かった。

「いい気分だ。ハルト頼みがあるんだが聞いてくれるか」

「なんだ、オオガミ」

「神獣が四人もそろえば空間にゆがみが作れるだろ。俺と槌熊をユートガルトに送ってくれないか」

「どういうことだオオガミ、俺と異世界だって」

「ツキノワだよ。男手一つじゃ子育て大変だろ。手伝ってやるぜ」

「ありがとうオオガミ、俺も頼むぜ。ユートガルトへ送ってくれ」

 頭を下げる槌熊たちの思わぬ申し出に驚くハルトだったが

「あゝ、喜んで、いい子に育てろよ。ハルアキみたいに」

 四人の神獣と三人の男たちは呑み明かしたのであった。



「やっと目を覚ましたか」

 丸二日、眠っていたハルアキが目覚めた。目の前にドーマがいた。

「マサカドのドラゴンはどうなったの」

 どうやら記憶が飛んでしまっているようだ。

「ありがとうハルアキ、無事成敗したぞ。ミッションクリアだ」

「よかった。オオガミと槌熊がやっつけたんだね。強いもんねあの二人、あれ、おかしいなタマモさんが飛んできそうなのにな。お腹がめちゃくちゃに減ってるんだけど、タウロ!何か作ってよ」

 厨房の方へ向かい声を上げるハルアキだった。

 涙が頬を伝う。

「ハルアキ、覚えておらぬのか」

 その問いかけに記憶がフラッシュバックしていく。突然、庭に飛び出て岩石に触れる。そして抱き着いて

「母さん、ごめんね。僕がもっと強かったら」

 母と呼ぶのがタマモが一番喜ぶと、涙が岩石に沁み込んだ。

「タウロとタエちゃんは」

 首を振るドーマ

「お前のせいではない。タエの両親には報告して、オオガミが瑠璃村まで行って形見の指輪を届け知らせた」

「何もかも元道りにはならないよね」

「あゝ、(しの)んでやろう」


 ハルアキはタマモのギターを持ち出してタマモの歌を唄った。


「ハルアキ、今宵の満月に現代に戻す儀式をするぞ」

「そう、それが約束だったからね」

 感情のこもらない声で答え遠くを見つめた後、静かにうなずいた。


 望月の下、魔法陣の上に目を閉じて座るハルアキ

 オオガミが鼓を持ち、茜、葵は笛を吹き始めた。幽玄ただよう笛の音色と澄み切った鼓の音が響き渡る。


 ドーマが静かに舞う。


 南の空に輝く月が次第に陰っていく。


あまとぶや

かりのゆくさきしめしけれ

かのちめざしてもどりけれ


 舞と演奏が終わるとドーマが崩れ落ちた。


「戻ったな」

 魔法陣にいたハルアキが立ち上がった。すでにドーマの体となっていた。

「うまく行くといいなハルト」

「ハルアキなら必ず成し遂げるだろう。次はお前たちだ」


「ハルト、お前も行かないか」

「いや、俺はこの時代で生きていく」


 ハルアキの次なる冒険が始まった。

平安編、終幕となりました。いよいよ現代へ戻るハルアキ改め晴明、無事に父と自分の人生を変えれるのか。次週お楽しみください。

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