〇殺生石
タマモがハルアキのところへ走っていく。
「しっかりするのよ。こんなに体が熱いわ。本当に無茶をして」
きつく抱きしめ、治癒魔法の沐浴をかけ続ける。
「神速のバングルも使わずに三分以上も連続で加速を使い追って」
ドーマはドラゴンを警戒しながら言った。
「父、しっかりするピコ」
ピコーナも近づき、さらに強力な沐浴を施した。
ハルアキが目を開けた。
「よかった。心配かけないでね」
「ドラゴンは?」
と言った途端、ドラゴンが首を上げた。
「ピコーナ!早くハルちゃんを非難させて」
「ぴこ!」
鎧をくわえてヨダルとフースーのいるところまで運んだ。
タマモはハルアキの落とした天叢雲剣を拾ってドラゴンに向き合った。
「ハルアキに手を出すことは私が許さない」
「だめだよタマモさん、こっちへ戻って、くそ!体が動かない」
タマモの方に手をかざしてハルアキは叫んだ。
「タマモ、オオガミと槌熊に任せてこっちへ戻りなさい」
とドーマも叫ぶがオオガミと槌熊はまだ回復できずに倒れたままだ。
ドラゴンの顔が縦二つに割れていく
「?ハルちゃんが引き裂いたの」
その中から大きなウジ虫のような巨大なワームが現れた。
「タマモ、早く逃げるんだ!」
「タマモさーん!!」
ワームは円形のとがった歯のある口を開いた。
真っ黒な霧をタマモに吐きだした。
竜巻
ドーマが霧を払いのけたが、そこには石化したタマモの姿、そしてどんどん石化は進み大きな岩石となった。
「タ、・・・」
大きく目を開いたハルアキは絶句した。
うまく動かぬ体でよろよろと岩石に近づいていく。
「うあぁぁぁ!」
叫ぶハルアキ!体が金色に輝き浮き上がりワームへ向かっていく。
「何をしたんだ!僕の母さんに!」
ワームはまたも霧を吐き出すがハルアキの前に消えていく。ハルアキの鎧もボロボロと分解してゆく。
「誰もハルアキに近づくな!タマモの時と同じだ。サイコキネシスが分子レベルで破壊しているぞ」
ドーマはかつてタマモが怒り、カルヤシャを分解した姿を思い出した。
ワームはどんどん崩壊してドラゴンごと霧散していく、ハルアキはなおもワームに進んでいった。
すべてを消し去るとハルアキは地面にドサリと落ちてしまった。
ドーマが駆け寄り抱き起すが今度は体が氷のように冷たい。
「ハルアキしっかりするんだ」
声をかけるドーマのうしろに人影が浮かんだ。
「法師様!気を付けて後ろ!」
サテュロスが叫んだ。
ふりむくドーマ、そこにはミシェル・スワンが立っていた。霊体となったかつての親友だった。
「ハルト、すまなかった」
「ミッチーどうして」
「俺はただお前といたかっただけなんだ。ハルトの為になることを欲したんだ。ユートガルト城でベルゼブブに魂を捕らえられそこからすべてを支配され、お前の異母兄弟とその母を殺して王への道筋を作ってしまった」
「気にすることはない俺の為だろ、俺の息子がすべて解決したぞ」
「ありがとうハルアキ。ハルト、いい子に育てたな」
「あゝ自慢の息子だ」
「何度も転生して彷徨ったがやっと会えてよかった」
「俺も会いたかったよ」
「じゃあ逝くよ。またいつか会おう」
と言い残すと消えていった。
回復したオオガミが来て
「あれはミシェルだろ。何を話したんだ」
「息子の自慢だよ。それよりハルアキが心配だ。私はこれからこの体を捨てて元の体に戻る」
「どういうことだ」
「衰弱したハルアキの魂といったん同化して回復させる。体を導魔坊へ運んでくれ」
と言い残すとドーマも倒れてしまった。
胡坐をかいてパソコンで仕事をする父の膝の上に座っている。
「晴明、どうしたんだ。小さい子供じゃあるまいし、邪魔をしないでくれるか」
小さな頃はノートパソコンで旅館の会計処理をしている父の膝の上が僕の定位置だった。たまに母さんが枕にしている時は退いてもらって独占していた。父が魔法の呪文でも打ち込んでいるかのような画面を見ていた。
「久しぶりに座りたくなったんだよ」
「しかし大きくなったな。重いぞ。ところでなにかあったのか」
「あのさー戦争ってどうしてなくならないの」
「なんだ急に、えらく大きな問題だな。誰かとケンカしたか」
「ちがうよ。どうして争わないとだめなのかなと思って」
「晴明、じゃあ正義ってなんだ」
「正しいことじゃないの。父さんの好きな特撮にも正義のヒーローが出てきて悪いことやってる奴と戦うじゃん」
「それが正義か?義とは人の守る正しい道ということだが、正しい道は一つじゃない。それぞれの人によって数多の道がある。宗教や主義主張が違うだけで争うこともある。どちらも正義だと思っているからだ」
「つまり悪がいるから争いが起こるんじゃなくて、思考の壁が原因なの」
「そうだな大体はそんな理由だ。聞く耳を持たないことが戦争の始まりだ」
「つまり自分の言いたいことや考えを一方的に押し付けることが争いを生んでいるんだね」
「どうだなくなりそうか」
「そうだね。そう言われるとなくならないこともわかるよ。でも、そんなことに巻き込まれた人達がかわいそうだね」
「人の命の尊さを誰もが考えることができればいいんだがな」
「父さん、なんだか涙が止まらないんだ。大切の人がいなくなったみたいなんだ」
「オオガミ、まだ目を覚まさないか坊主は」
「あゝ、何か夢でも見ているようだ。体は回復してきている」
オオガミと槌熊はハルアキを看病している。三人の神獣たちも話をしていた。
「フースー元気を出すピコ」
「その竜玉、形が変わっておるぞ」
フースーの抱く竜玉が卵のようになった。
「なんか動いているにゃ」
ひびが入り殻が割れた。
「えらい目にあったぞ」
ひょっこり小さな竜が顔を出した。
「あ、ミシエル!お帰り」
フースーは小さな竜を引っ張り出して抱きしめた。




