〇踊れ謡へ
錦の市をぶらぶらし一回りして、しかたなくもう一度タエの売り場に戻った。
いつの間にかタマモとはぐれてしまったがタマモの買った服や布切れや装飾品あれこれを持たされ荷物がいっぱいだ。荷物持ちがいるとばかり、どれだけ買えば気が済むのってくらい物欲の塊だ。おなかも減ったのでタエたちとお昼を食べて待ってみるつもりだ。
「うあぁタウロのおにぎりだ!タエ大好き」
「いっぱいあるから、おば、あ母さんもどうぞ」ちょっと学習。
「ありがとございます。ハルアキ坊ちゃん、こんなものですがどうぞ」
スライスして干したカボチャをくれた。ポリポリ食べる野菜の甘みが凝縮されて美味しい。
「美味しいですよ。これも売ったらいいくらいです。きっと人気になりますよ」
「あれこんなもんでもいいんです?」
市場調査はばっちり、加工食品は割と少ない。ドライベジタブルは大根以外なかった。導魔坊の野菜を作っているのだから珍しい野菜が多いのでタウロに言ってレシピの助言で販促のポップを作ったら売り上げ上がるがもっと上がるかも。そうだ!導魔坊農園の看板を掲げればドーマさん人気にも乗っかれる。
清盛さんも商才があるなんてほめてくれている。父さんは旅館は継がなくていいとか言っているが、中学校のトライやる・ウィーク、課外活動授業で旅館の売店を手伝った時、こういったことをあれこれ考えることが楽しかったことなんか思い出した。
タエたちとワイワイと話が進みすっかりお弁当も食べ終わった。突然、騒がしい音がすると向こうの小屋から人が逃げ出してくる。
「あそこは酒肆ですね」
タエのお母さんが説明してくれた。この時代の居酒屋のようなものだった。
酔っ払いが暴れているようだ。二人の男たちが店の外に放り出された。
「あっタマモさん!」
あとから出てきた。こんなところで油を売っていたのか。
「やいやいこの酔っ払い!気安く触るんじゃないよ」
腕の部分が光ったと思うと、男たちに指をさして次に近くの溜池のほうを指す、すると酔っ払いたちはそこ目掛けて飛んでいく。
「水でも飲んで酔いを醒ましな」
啖呵を切ってこっちにやってくる。
「まったく、人が気分よく呑んでるとこに絡んできやがって」
不運だったな酔っ払いさん。
「ピー!!」ピコが突然鳴いた。
<鬼がいます>
虫の知らせもレベルアップして具体的なことを言ってくれるようになった。
「みんなこっちへ逃げて!」溜池からはい出した酔っ払いはオーガと化していた。一緒に妖と化したムカデや蛇を無数引き連れてきた。
「加速!もう、休みなのに!」
蜘蛛切丸で切り裂いていくが、溜池からどんどん妖が湧いてくる。タマモさんに加勢してもらおうと見るが酔いつぶれて眠ってしまっている。
「もう。。。竜巻!!」
水球の派生呪文の竜巻を起こした。溜池の水を巻込み強烈な水流で空まで跳ね上げる。妖たちは一気にバラバラになった。巻き上げられて落ちてきた残り二体のオーガに衝撃波を浴びせてやった。二人から黒い呪が抜け出しかき消えると元の人間に戻ったようだ。よかった憑依が浅かったようだ。
頭を抱えふらふらと男たちは目を覚ました。
「おじさんたち大丈夫?」
「なんでこんなとこにいるんだ?体がビリビリするはずぶ濡れだ。おらたちはどうしただ」
ふたりは見合って首をかしげている。
「どうしてこんなことになったか覚えている?」
「昨日の夜、仕事にあぶれてむしゃくしゃして二人で呑んで帰る途中、骸骨の化け物が現れて驚いて腰抜かしたら、黒い煙に巻かれて・・そこからはもう・・・」
奠胡に違いない。
人たちが危険が去ったことを知り集まってきた。
「このお兄ちゃんは、導魔法師様のお弟子さんでハルアキさんというんだよ。とーても強くて鬼を退治してくれたからもうだいじょうぶだよー」
タエが叫んだ。
人たちはハルアキに手を合わせ拝んでいる。もう恥ずかしくてたまらない。
「じゃあ、皆さんさようなら」
大きな荷物を担ぎ、その上にタマモさんを載せてそそくさと逃げるように走った。
導魔坊に逃げ帰り、さっそくドーマさんに報告した。今日はドラレコがないので、荷物とタマモさんを横に転がし、あれこれじかに説明した。
「そうか奠胡めの鬼がおったか。おそらくきやつは時間稼ぎに都に騒乱のタネをまいていったのじゃろう。奴らも準備がまだ整っておらぬのようだな」
「ハルアキよ明日から都をパトロールしてまいれ!また鬼を放ってくるはずだ」
またまた、いつもの無茶振り、休んでいる間もないよ。
ドーマさんは、酔いつぶれたタマモを見つめ
「いつまでたってもトラブルメーカーじゃの」
とつぶやいた。その時、気のせいか無表情の面が笑ったように見えた。
次の日朝からご飯もそこそこに茜、葵と三人で都を見回ることになった。
導魔坊の庭先で
「パトロールと言ってもどこを見て回ればいいんだろう。何か考えある?」
二人に相談した。
「捜査の基本は足で稼ぐ、とにかくうろうろすれば、棒に当たる。いこうぜ」
僕は犬じゃないよ。聞く相手を間違えたかな。
「ハルアキ殿も卦を使い占ってはいかがでしょうか」
葵のアイデア採用決定。
都のマップをウィンドウで開き、卦のウィンドウも開く。各種パラメータを設定して、えーとそれからどうするんだった?肩に止まっていたピコが「ピー」と飛び、マップの一条大路の堀川にかかる橋をつつきだした。
「そこになにかあるの?ピコ」
卦を行っている三人の前に行商人が導魔坊から出てきてハルアキたちに挨拶をした。
「一条戻橋、私もご一緒しましょう」と声をかけてきた。
「どなたですか?」
ハルアキが聞くと
「佐助です。この姿で都を探索しており、導魔法師様に定期連絡に参った次第です」
背丈も声も全然違う。すごい変装だ。体中の筋肉や骨でさえ自在に操り変装ができるとのことだった。仙術というもの使っているそうだ。ますます謎の人だ。
いったん導魔坊へ戻りドーマさんに戻橋まで行くことを伝え北西の一条大路へ向かった。
「佐助さんもあのあたりに何か心当たりがあるの」
「いえ、夜な夜な妖しげなおなごのおるとのうわさを聞きまして、法師様にもご連絡をしておりました」
「何も被害は出ていないの」
「ええ、しかしあのあたりは黄泉の国への通路が開くとのうわさがありますので、念のため調べてはと」
堀川通りを上っていくと大きな神社があった。
「大きな神社だね。向こうの端が見えないよ」
伊勢神宮のような大きな鳥居から覗く景色もうっそうと茂る木々で本社も見えない。
「晴明神社と申します。安倍晴明とおっしゃる高名な陰陽術師の屋敷跡に作られ申した」
「へーすごい屋敷だったんだね。晴明だって僕と同じ名前だよ。母さんの旧姓が阿倍野だから父さんと離婚して引き取られたら僕の神社になるね」
離婚だなって絶対あり得ないくらいラブラブ夫婦だけど。
「お参りしていこうよ」
神社に踏み入った。
<鬼がいます。複数>
「佐助さん!用心して、ビンゴだよ」
奠胡やつも、こんな神域に鬼なんて罰当たりなことをする。
気配はするが姿が見えない。蜘蛛切丸を構えあたりをうかがった。うっそうと茂った木々からメジロのさえずりが聞こえる。気のせいかあたりが少し暗くなってきた。
土中から三十体以上の鎧兜のゾンビの鬼?いや骨だけの刀を持ったスケルトンの鬼が現れた。鳥たちはいっせいに飛び立つ。
「奠胡もひどいことをする。死して安住の眠りにつくものをハルアキ様成仏させてあげましょう」
行商人装束を脱ぎ捨て、真っ黒な装束サラサラ髪のイケメン忍者のような姿に変身して、小太刀を構え駆けだした。加速も使っていないのに目にも止まらないスピードでスケルトンの首を落としていく。
おお!かっこいい!本当に得体のしれない人だ。最初に会った時の姿も変装で、いやこれも本当の姿じゃないかもしれないけれども。あっけにとられ出遅れたが加速で戦いに加わった。茜と葵も闘う。
ところが倒しても倒しても、元に戻り復活してくる。佐助さんは火薬球を投げて爆破するが、欠損部分を土くれで補充して起き上がってくる。
「キリがないよ。どうすればいいの」ハンニャに聞くと
<踊り・謡う>
「なにそれ?」
「ピー」
ピコが鳴いている。
後ろから何かがやってくる。やばいな挟み撃ちだ。
「坊ちゃまー!」
タウロが車を轢きやってきた。援軍だ助かった。
「タウロさん!ありがとう困っていたんだよ」
タウロは金棒を振り回しスケルトンを砕きまき散らしていく。このくらい粉々にすればもう大丈夫だろう。
安心したのもつかの間、またスケルトンは立ち上がってくる。物理攻撃では倒せないようだ。車からドーマが現れた。
「ハルアキよ!踊れ謡え!」
えっスリラーかよ。マイケルの真似をして踊ってみる。
「しかたがない、見ておれ。タウロ、茜、葵、準備だ」
タウロは小鼓を打ち、茜と葵は笛を吹き始めた。幽玄ただよう笛の音色と澄み切った鼓の音が響き渡る。
ドーマは手に扇を持ち、ふわっと飛び、敵の中央へと降りたった。禹歩で敵の中を進んだ、禹歩とは、まじないの歩みだ。能楽のシテのように優雅で雅な動きで舞っている。スケルトンは動きを止めている。いや、金縛りにあっているようだ。
あたりはモヤ、霧が立ち込めた。
ドーマは扇を開く。
ぬばたまの
その夜の命をわずらわず
おきつ来にけりあかぬわかれ
葬送
呪文のような歌を詠んだ。まばゆい魔法陣が広がり、地面から無数の黒い手が現れスケルトンを地中に引きずり込んだ。
「どうだハルアキ、言霊の力だ」
「すっすごいよ!!僕にもできるの?」
「歌の稽古をせねばならぬな。明日から取り組むか」
歌を詠むなんてできるのかな。百人一首は覚えているけど大丈夫かな。鼓と笛の稽古もしないといけないのかな。あー課題が増えていくなぁ・・・・
「佐助殿、ぐそくいや、ハルアキの面倒ありがとうござる。素晴らしい技をお持ちだ今度ゆっくりとタウロの飯を食べていただき、お話を伺いたい」
「いえ、勿体のうございます」
「まっそういわず、機会があればぜひ。ではこの社で夜まで待ち戻橋へ向かいましょう」
「終わったんじゃないの?」
「まだ、ここからが本番じゃ」




