〇ハルアキの災難
「ガスター帰ってこないわね。奠胡、やられちゃったみたいね」
「ふん、懐かぬ犬など要らんわ」
「よくいうよ。あんたを好いてる奴なんかいないよ。性格変えな」
「うるさい、放ってくれ、そう思う奴が無能なのじゃ」
「でもどうする。あいつらと戦う駒がないよ。このままじゃ」
「考えておる。このからくりに奴らの魂を込めてやる」
かつてシーモフサルトの飛行船に装備しようとしていたからくり兵が四体そこにはあった。
「奴らってあの藤原千方の四鬼のことか。魂は見つけたのか」
「おそらくは尾呂志村の洞窟じゃろう。行ってくれるか」
「いやだよ、自分で行け」
迦樓夜叉は逃げていった。
「くそ、融通の聞かん女だ。槌熊はいないし、こんな時にサテュロスがいてくれたらの」
「タマモさん~」
今朝目覚めたハルアキは大急ぎでタマモの部屋に駆け付けた。
ガラッと扉を開けて寝ているタマモを揺り起こしている。
「何よ、ハルちゃん、レディの部屋に入るときはノックしてよね」
まだ、枕を抱いて寝ている。
再び揺り動かす。
「早く起きてよ大変なんだ」
「何よ。もう少し寝かせてよね」
と言いながらも目をこすり上半身を上げた。真っ裸だ。
「あら、かわいいじゃない。私とお揃いね。じゃあおやすみ」
また横になった。
ハルアキがケモ耳になっていた。
「もう、尻尾まで生えているんだよ」
尻尾を振るハルアキ
起き上がり驚きの表情のタマモ
「夢じゃなかったのね。どうしたの」
「こっちが聞きたいよ」
「あれじゃないの八百比丘尼の血を呑んだから」
「元に戻せないの」
「さあ、ドーマに聞けば」
起き上がり着替え始めた。
二人はドーマの元へと向かった。
「ドーマ、ハルアキが私とお揃いになっちゃったよ」
後ろからハルアキが姿を見せた。
「な、何じゃ、何をどうしたんだ」
ドーマも驚いていた。
ハルアキが八百比丘尼のこと、血を呑んだことを説明した。
「そうかその葛の葉という九尾の狐の血を呑んだというのか。それで妖狐族に変化してしまったのじゃな」
「何か戻る方法はありませんか」
「ないだろうな。それに妖力がかなり増しているではないか、今はそのままでいいんじゃないか」
「そんなぁ」
「ハルちゃん、その姿で困るんなら、化ければいいじゃない」
「化ける?」
「フーちゃんが先生だから教えてもらいなさい」
「フースーさんが」
「フーちゃん、どこ」
呼ばれてやってきたフースー
「何、タマモ、あれハルアキどうしたのタマモの真似?」
耳を引っ張って本物であることを確認すると
「化け方タマモに教えてもらったの?」
「違うんだけど、その化け方教えてもらえないでしょうか」
「簡単よ。はい」
葛の葉を渡された。
「もしかして狸みたいに頭に乗せてやるの」
「狸じゃないよ狐だよ」
タマモが言う。狸呼ばわりされるのが嫌みたいだった。
「じゃあ、手本を見せるね」
フースーは頭の上に葛の葉を載せると印を結んだ。
ドロンと音がしてフースーは人間の女へと変身した。
「簡単そうだね」
ハルアキが真似をするとやはりドロンと音がして元のハルアキの姿になった。
「よかったじゃないか。ハルアキ、見た目は元道理だ。人化の呪符は要らないな」
ドーマが見ても大丈夫のようだ。
「葉っぱを載せるのきっかけだから、慣れれば別に要らないからね」
「ありがとうフースーさん」
「葉っぱいらないの」
タマモも印を結んだ。
ドロン
「母さん!」
ハルアキは大きな声を上げてしまった。
「よ・・」
ドーマは陽子と言いそうになって慌てて止めた。
「ハルちゃんもドーマも固まっちゃって驚いた。私もできるの」
「いやそんなことよりも、僕の母さんと瓜二つだよ。若いけど」
「そんなに本当のお母さんに似てるのこのままでいてあげようか」
タマモはハルアキの顔に近づけた。
「いいよ、いつものタマモさんでやりにくいよ」
「そうだタマモ、なるべくその姿はやめておきなさい」
ドーマもオロオロとしてしまっている。
「あれなんで」
「ハルアキも里心が付いて修行に身が入らんじゃろ、なっハルアキ」
「う、うん、タマモさんはいつものタマモさんでないと母さんの姿でいられると調子狂っちゃうよ」
「あらそうなの、面白いからたまにやっちゃおうかな」
いたずら顔で言うとドロンと元のタマモに戻った。
「やっぱりそのほうがいいよ」
安堵したドーマとハルアキであった。
小さな声でハルアキはドーマに聞いた
「ねっ、こんなことってあるの誕生日一緒だし肩のほくろも一緒だよ」
「わからんが天文学的な確率だと思うしかないな」
ドーマにも理由がわからずにいた。
そんなふたりの思いをよそにタマモは誕生日プレゼントのギターを弾きまくっていた。
その夜はハルアキは現代の夢を久しぶりに見た。母と語らう夢だ。