〇八百比丘尼
「ドーマ、赤ちゃんほしいよ」
タマモがドーマに抱き着いている。
「ハルアキ、これはなんなんだ。鬱陶しくてかなわん」
「あのう、赤ちゃん抱いたからだと思います。ガスターを浄化したときに」
「タマモ、育児ってのは大変なんだ。軽々しく赤ちゃんほしいなんて言わないでよく考えなさい」
ドーマに怒られてしまい半べそをかいてしまった。
「いつかきっと願いはかなうよ。今は平和が来るのを待てばいいじゃん」
「ハルちゃん」
ぎゅっと抱きしめられてしまった。
「くるしいよ」
「ハルちゃん抱きしめてちょっとはすっとしたわ。お買い物行ってこよ」
タマモは出て行ってしまった。
「ねえ、ドーマさん、タマモって何歳なの。直接聞くと怒られそうだし」
「あいつか、最初会った時六歳と言っておったが、叔母に聞くと八歳だったので、もう十八になるかな」
「ええ、十八歳、見えないよ精神年齢はともかく二十四、五才くらいだと思ってたよ」
「まあ獣人は成長が早いのでそうなんだろう」
「誕生日とか知っている?」
「あゝそれも叔母から聞いておる。あっ忘れておった明日だったな」
「忘れちゃだめだよ。って母さんと同じ誕生日だ」
「!そうじゃの」
ドーマも今になって気が付いていた。
「あれ、どうしてドーマさん僕の母さんの誕生日知ってるの?」
「いや、そうなのかと言ったのじゃ」
「そうだっけ?まっ誕生パティ―をサプライズでしようよ」
「そうだな、今まで一度も祝ったことがなかったな。よろこぶだろう」
「さっそくタウロにパティ―の準備を頼んでくるね」
厨房へ走って行ってしまった。
「そうか陽子の誕生日か、ここ何年もすっかり忘れていたな。怒られるな。それにしてもタマモの誕生日か、これも縁がつながった理由かな」
ハルアキが戻ってきてドーマの耳元で何やらつぶやいた。
「そうか、誕生日プレゼントか。よしそれを二人でこれから作ろう」
錬金部屋に二人はこもって何やら制作を始めた。
「できた。完璧だねドーマさん」
「喜ぶだろうな」
「清盛さんと康成さんの予定も聞いてくるね」
母屋に向かったハルアキ
「康成さん?何をにやにや見てるの」
後ろに隠す康成だがひょいとハルアキに取られてしまう。
若い尼さんの絵だった。今でいうプロマイドみたいなものだろうか。
「何この尼さんの絵」
「いやその都で評判の美人での八百比丘尼と言っての熊野詣でに向かう途中の信太の森におるそうなんじゃ。めっそ会えることはないがよくあたる占いをしてくださるそうじゃ」
「へえ、でも康成さん占いが目的じゃないでしょう」
「もうハルアキ殿も人が悪い。そんなことじゃないですよ」
「いや、それより清盛さんと明日導魔坊へご飯食べに来てよ」
「お、久しぶりですな私は清盛殿にも伝えておきます」
「次はイロハとタエちゃんかな」
ハルアキは出かけていった。
そして導魔坊へ戻ると同時に
「ただいま、今日もたくさんのお買いものしちゃった。あらハルちゃんもお出かけしてたの」
タマモも満足そうな顔で風呂敷一杯の服を買って帰った。
「ちょっとタエちゃん家まで」
「なにニヤニヤしてるの?」
いけない、いけない普段通りに
「なんでもないよ。康成さんにそこであっただけだよ」
そうだ、これだ。
「あのね。八百比丘尼っていう占いがよくあたる尼さんがいるらしいんだけど。明日行ってみない」
「あら、いいわね。恋愛運占ってもらおう」
しめしめこれで用意の時間ができる。
そしていつも通りの夕食を取って明日に供えて眠った。
「じゃあ、信太の森まで行ってきます」
「ハルちゃんとお出かけお出かけ」
機嫌よさそうにしている。
小声でドーマに
「じゃあ歌の練習みんなんしておいてね」
「何ごにょごにょ言ってるの早く行こう」
「ピコーナ頼んだよ」
ハルアキとタマモは飛び立っていった。
信太村へと降り立った。
「ピコーナ、探ってみてよ」
「ピコピ!こっちかな」
神社に分け入るハルアキたち、そこへ一人の尼さんがやってきた。
「おぬしたちはわしが目当てじゃろ」
「そ、その通りです。八百比丘尼さんですか」
「こちらへ来るがいい」
お堂の中に招き入れられた。
なにかおかしな状況だ。
「どうして僕たちがあなたを探しに来たのがわかったんですか」
「ふふふ」
笑いくるっと宙を舞った。
「うああ」
とっさに剣を構えてしまった。
目の前に大きな真っ白いキツネがいた。
「なにもせん、しまえ」
と言いもう一度くるっと回ると若い女の姿になった。ケモ耳だ。
「あっモモ!」
タマモが抱き着いた。モモは同じ妖狐族の友達だ。
「人違いじゃわれは葛の葉という瑞獣じゃ」
瑞獣とはピコーナと同じく神獣に属する長だった。
「確かにしっぽ九本もある」
「そこの娘、おぬしは妖狐族じゃな。われの眷属、名は」
「タマモです」
「妖狐族の神様みたいな方なんですか」
ハルアキが聞くと
「そうじゃな。おぬしの魂もその血が流れておるな。名は」
「ハルアキです。そうなんですか。確かにタマモさんみたいな念動力や火炎狐使えますけど」
どうしてその血が流れているのかは謎だが確からしい。
「マサカドがあらわれたそうじゃな。おぬし力が欲しいか」
「ええこれから対決することになると思います」
「タマモとやらは強大な力を持っておるの守る人のためにその力は解放できるであろう。ハルアキおぬしは」
と言いながらハルアキに近づき自分の指をかみ血をしたたらせ。
「飲むがよい」
口の中に突っ込まれた。
「これでより力が湧き出るであろう」
「ハルちゃん大丈夫?」
「うん、いまのところ」
「ふふふ、ではな」
というと消えてしまった。
「あっ占ってもらうの忘れてた」
「ほんとだ。探そうか」
時間つぶし目的の旅である。
「ピコーナ、わかる」
「全然わからないピコ、でもこの村は陰陽師がいっぱいいるピコ」
「そうなの話聞きに行こうか」
都から来た導魔法師の弟子というと誰もが歓待してくれた。特にタマモの姿を見て拝んでいる人もいた。
あれこれと話をして食事もいただきあっという間に夕方へとなっていった。
「じゃあタマモさん帰ろうか」
いい時間となっていた。
「そうね飽きちゃった」
「ピコーナ帰ろう」
「ピコ」
「ただいま」
「あれ誰もいないのかな」
不振がるタマモを後ろから押して
「汗を流して食事にしよう。今日は一緒に入ろう」
「妙な風の吹き回しね。いいわよ」
「さっぱりした、おなか減ったわ」
食堂のドアを開けるタマモ
クラッカーの音が鳴る。
「お誕生日おめでとう!!」
ハルアキは紙鍵盤を開いて弾き始めた。
「ハッピバースデイ、タマモ♪ハッピバースデー・・」
みんなで合唱する。
「な、なにこれ」
驚くタマモ唖然としている。
「誕生日おめでとう」
ドーマが言った。
「これは僕とドーマさんからのプレゼントだよ」
ハルアキは布をどけるとそこにはフェンダーのストラトキャスター風のピンク色のギターとアンプがあった。
ぼろぼろと涙を流すタマモ
「ありがとう、こんなに楽しい誕生日は初めて、みんなありがとう」
タウロが18本のろうそくが立ったそれは大きなケーキを持ってきた。
「吹き消すだす」
いわれて一息に消した。そしてギターを持って歌い始めた。
涙で顔がぐしょぐしょだがしっかりと歌っていた。
その夜の導魔坊は大音響のエレキサウンドが響き渡っていた。