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〇鞍馬一刀神流

 台風一過、夏の青空が鞍馬の山にも広がっていた。

「そうじゃ、ハルアキ君、もっとゆっくり」

 ハルアキは太極拳のような動きでゆっくりと剣を振っていると言うより動かしている。

「気を練りながら感じるままに剣を動かすのじゃ」

「あんなんで強くなるののんびりすぎない」

「奥様、坊ちゃんの顔を見るだ。苦しそうに汗まみれだす」

 ハルアキの足元には魔法陣が刻まれてあった。これはハルアキ自ら施した呪法だ。

 魔法陣の上の空間は重力が通常の五倍となっていた。およそ5Gの力で拘束されている。ジェット戦闘機の急旋回と同じくらいだ。

「よし、休憩するかの」

 魔法陣から出たハルアキは崩れ落ちるように膝をついた。

 汗を拭きにタマモが近づいた。その時うっかり魔法陣の上を通ってしまった。

「ぎゃっ」

 地面に張り付いてしまった。

「奥さん、今助けるだ」

 タウロがタマモを助けに魔法陣に入った。タウロの力をしてもかなりスローにしか動けないが何とかタマモを連れ出した。

「こんなとこで鍛錬してるの、私なんかピクリとも動けないよ」

 目をまわしながらタマモは水を飲んでいた。

 手拭いで汗を拭きながらハルアキも水を飲んで

「明日はもっと重力を上げて鍛錬するから、気を付けてねタマモさん」

「ハルアキ君、七つのチャクラがかなり開いてきたな」

 チャクラとは人体の生命エネルギーの中枢となる部位で活性化することによって超人的な能力を発揮することができる。

「おい、ガア、マシ、オルそこで型げいこをしてみなさい」

 大御堂は三人の烏天狗に命じた。

 休憩をとるハルアキはその様子を食い入るように見ていた。

「どうじゃ、打ち込みの(ライン)が見えてきたじゃろ」

 確かにこのラインをたどれば無想閃光斬が放てると感じた。

「大御堂のじいちゃん、わかるよ、わかるよ」

 興奮気味にハルアキは答えた。

 その日は一日この繰り返しの修業だった。


 近くの滝で汗を流したハルアキが帰ってきた。

「坊ちゃん、ご飯できてるだ」

「タウロいつもありがとう」

 タマモがとってきた雉と山菜の炊き込みご飯にナスの揚げ浸しとかぼちゃのいとこ煮だった。

「この牛鬼殿の飯はいつも旨いのぉ。わしらと暮らさんか」

「それは無理だとも坊ちゃまに修行をつけてもらってるお礼だす」

「タウロがいなくなるなんて考えられないよ。でもここのところずっと家庭料理みたいなものばかりだね」

「奥様に教えているだ。家庭の味というやつがご要望だ。このいとこ煮も奥さんの手作りだ」

 確かに美味しい懐かしい味だ。

「タマモさん、美味しいよすごく上達したね」

「ハルちゃんの喜ぶ顔が見たいのよ」

 うれしそうに笑っている。


 そして一週間の日々が過ぎた。

「よくここまで鞍馬一刀神流をものにしたなハルアキ君」

「いえ、大御堂じいちゃんの指導の賜物です。ありがとうございます」

「まだ秘伝の奥義は残っておるが免許を皆伝しよう。この巻物と羽団扇を授けよう」

「ありがたく頂戴します」

「おっと忘れておった。この隠れ蓑もじゃった」

「これは?」

「隠形の術がかかっておる。九字護身法(くじごしんぼう)を唱えればしばらく姿を隠すことができる便利な道具じゃ」


「ピコピー」

 ピコーナが飛んできた。

「父、都で大変なことが起こっているピコ、帰るピコ」

「なにがあったの」

「五条の橋で夜な夜な怪人があらわれて武芸者を襲ってるピコ」

「わかったよ。大御堂さん、短い間でしたけどありがとうございました。僕らは都に戻ります」

「がんばるんじゃぞ。時間ができたらまたここへきて残りの秘伝を学びなさい」

「はい、それでは失礼します」

 ピコーナで飛び去って行った。例によってタウロは角をつかまれて。

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