〇龍王の鎧
「わしは大御堂という天狗族の頭じゃ。と言うても一族は異世界へと旅立っていった」
「一人っきりなの寂しいね。どうしてほかの人たちは異世界へ行っちゃたの?」
残された寂しさをよく知るタマモが聞いた。
「今のこの世が住みづらいとさ、表舞台で活躍したいということじゃ。どうしておるかの」
「おそらく一人は知ってるよ。向こうでその腰の羽団扇を持って鞍馬一刀神流ってやつ使ってたから」
テンコと闘い命を落としたフィギア好きのオオミドウのことである。
「さようか、それはうれしいの表舞台で鞍馬一刀神流で派手に暴れておったのか」
「うん、すごい活躍で国を平和にすることにとっても貢献したのよ」
「元気に暮らしておるのじゃな。よかったよかった」
オオミドウは天狗族の最後の一人と言っていた。本当のことを言えないタマモであった。
「導魔法師とやらが尋ねてきたのは偶然ではないちゅうことじゃな。そしてハルアキ君、鞍馬一刀神流を学びたいと」
「はい。お願いします」
頭を深々と下げるハルアキ
「これも縁じゃ。よろしく頼むぞハルアキ君、鞍馬一刀神流を継いでくれ」
「ハルちゃん、じいちゃんの技、よく学ぶのよ」
ポンと背中をたたいた。
「まずはわしの眷属の烏天狗と立ちおうてみい」
バサッと、羽団扇を仰ぐと三匹の烏天狗が現れた。
ハルアキは木刀を構えた。
烏天狗たちは三位一体でハルアキに襲いかかる。
なんとか対応できる速度だが、その剣の属性に苦労する。それぞれの剣に火、氷、雷の魔法がかかっている魔法剣だ。これも天分の才というべきかその属性の魔法に切り替えながらハルアキは受けている。
「ほっほう、面白いことをするなハルアキ君」
大御堂も感心している。
烏天狗たちは一直線に並びハルアキに突進してきた。
「同時攻撃ではどうかな」
大御堂が見守っった。
「これは知ってるよ。なんとかストリームアタックだ」
ここでハルアキはある思い付きを試してみることにした。
三体が一度に撃ち込んできた。
烏天狗たちの剣を受ける木刀が真っ黒になった。攻撃魔法を吸収していた。
「これでも喰らえ!!」
後ろに回転して飛び退き横一線で木刀を振りぬいた。
吸収した三属性の魔法を放出した。
吹き飛ぶ烏天狗たち
「そこまでじゃ」
タマモが手を叩いて喜んでいる。
「坊ちゃま、また腕を上げてタウロも驚きだ」
「なかなかの腕前じゃ、ハルアキ君。炎の如く揺らめき、水の如く流れ、自由な立ち捌きだが、わしと立ち会ってみよ」
というと大御堂は霞の構えを取った。中段から剣先を向かって左側に開いた。まるでバッティングのポーズのようだ。
ハルアキは中段の構えだ。
大御堂のスキのない構えに撃ち込むすべを探るハルアキ、数分にらみ合いが続いた。数分と言ったが実際には数秒の出来事だった。
「きぇぇーい!!!」
大御堂の剣はハルアキの首すじでぴたりと止まった。
「参りました。太刀筋は見えていたはずなのに反応できませんでした」
「これが鞍馬一刀神流の奥義の一つ、無想閃光斬じゃ。相手のスキを見つけて最短に高速で打ち込む剣である。自由に動くハルアキ君の剣とは対極をなす神技だ」
「僕にも体得できるんでしょうか」
「鞍馬一刀神流は妖術も組み合わさっておる。導魔法師も言っておったがハルアキ君は人間なんだが妖気を持っておる。不思議じゃのう。おぬしなら数日である程度までは鍛えてやろう。敵も待ってくれんじゃろうから」
「お願いします」
そして大御堂の元、激しい修業が始まった。
「タウちゃん、退屈ね」
「導魔坊へ帰ったらどうだで」
「いやよ、ハルちゃんの成長する姿が見たいんだもん。でも暇ね」
「料理手伝うだか。みっちり教えるだで」
「いいわね、花嫁修業ね。ハルちゃんに美味しいもの作れるじゃん」
雨が降ってきた。
「これは嵐になるだ」
「何よ、私が料理を作るのがそんなに珍しいってこと」
「いや、冗談じゃないだで坊ちゃんが心配だ」
滝行をしているハルアキのところも雨が降り出した。
「これでは滝に打たれていると同じじゃな。ハルアキ君、雨宿りをするか」
大御堂に言われ大きな木の下へと移動した。そこへタマモがやってきた。
「こんなひどい雨じゃ修業は中断ね」
「滝に打たれる意味がないからね」
「ハルアキ君、天候を操る秘術があるんじゃがみてみたいかい」
「そんなのできるの」
大御堂は雨の中に立つと羽団扇を仰ぎ何やら呪文を唱え始めた。
見る間に天上の雲が渦巻き消えて青空がハルアキたちの周囲だけ広がった。
「あら、便利な呪文ね。洗濯物に便利じゃない」
「それどころじゃないよ。天候を操れるなんてすごいよ」
「ハルアキ君も修行終えれば同じことができるようになるぞ」
そう言っているうちにまた晴れ間は消え雨が降ってきた。
突然雷が鳴り始めた。
「いかん、これでは修行どころではないのう」
三人は鞍馬寺まで戻ることとなった。
そこに雷が落ちた。ハルアキを直撃したように見えた。
なんと雷をハルアキは掴んでいた。
「なんじゃおぬし!雷をつかんでおるぞ」
ハルアキの龍王の鎧のバックルが光り輝いている。
「この鎧の力みたいだよ」
つかんだ雷を槍のように近くの木に投げた。轟音とともに落雷を受けたように裂けてしまった。
「これは・・・」
あきれる大御堂とタマモであった。
そして足早に寺へと帰っていった。
濡れた体を拭いてタウロの入れてくれたお茶を飲むハルアキたちである。
「ハルアキ君には驚かされることばかりじゃの、その歳であの剣技のうえ雷をつかんでしまうとはいやはや」
「ハルちゃんの鎧、すごいね。これで天気を自由に操ることができたら雨雲呼んで雷の槍使いたい放題だね」
またタマモの突拍子もないアイディアである。
「それ使えるね。大御堂のじいちゃん、早く天候を操る技も教えてね」
「うむうむ、わしも楽しみになってきたわい」
鞍馬一刀神流と新しい技までハルアキの修業は予想以上のものを彼に与えるのだろう。




