○龍玉
「しかし、奠胡が何の目的もなく伊勢からこの京へ巡業をしていたとは思えぬ」
導魔坊に戻ったドーマは疑惑を持っていた。
「ドーマさん、明日ピコーナに乗って調べてきましょうか」
「ハルアキ、そうか、すまぬが頼もうか」
「坊ちゃま、伊勢へ行くだか。それならお使いも頼もうだか」
「わかってるよ。海産物だね」
「んだ。夏牡蠣を頼むだ、それとイサキがええな」
「わかったよ、地元の人にもお勧め聞いていろいろ買ってくるね」
そして風呂に向かい、一日の汗を流した。
厨房を覗くとライスペーパーに海老や野菜を清八と喜六がくるくると巻いている。
「生春巻きだね。今日はベトナム料理だね」
「越南の料理だであれこれ作ってみただ」
「楽しみにしとくね」
生春巻きを一本食べながら食堂へ向かった。
今日は茜や葵も食卓に並んでいる。鬼若との戦いに参加したのでそのまま栄養補給らしい。
「いいな、ドーマや茜や葵はハルちゃんを演奏でサポートできて、今日は何にも暴れられなかったよ」
タマモも戦いたかったようだが出番がなかった。
「ドーマ、楽器を作ってよ私の」
「タマモさんは何を弾けるんですか?」
「ハルちゃん、ギターよ」
「えっギター、平安時代にはないよ。琵琶くらいだよ」
「それでいいわ。弦楽器なんでしょそれならいいわ。ドーマお願い」
「確か清盛殿が持っていたと思うが頼んでみよう」
「やったー。ハルちゃんは何か楽器できるの」
「ピアノは習っているけどさすがにピアノはないよね」
「キーボードは作れるかも知れん」
「えっドーマさん本当」
巻紙を取り出すと紙鍵盤を描いた。
「えっ紙鍵盤」
「弾いてみろ」
投げ渡された巻物を開き、紙鍵盤を押さえると音が鳴った。
「わお」
ハルアキはショパンを弾いた。
「すごいわ。ハルちゃんなんて曲」
「ノクターンの二番だよ」
「ノックダウン?そんなにパンチ力あるかしら」
「はっは、ノクターンは夜想曲だよ」
「ふーん、いいメロディよね」
母さんも必ず一番に弾いてくれとお願いされた曲だ。
「さあご飯食べよ」
くるくると鍵盤を巻き箸を取った。
生春巻きのほか鶏ももの焼いたやつに麺料理のフォーやバインミー、フランスパンに具材をはさんだカスクートのような食べ物だが現代のベトナム料理だけどまあいいか。
「今日のエスニック料理も最高、夏にぴったし」
食後はタマモにせがまれてハルアキの演奏会へとなった。
朝ごはんを食べてすぐにハルアキは巡業の通った道を追う。
「じゃあ調査に行ってきます。ピコーナ行くよ」
「父、了解」
ハルアキは飛び上がるとそれを追ってピコーナが背中に乗せる。ミケーレまで飛び乗ってきてしまった。
「ミケちゃん、ついてきちゃだめだよ」
「にゃー」
まずは大坂に今は東横堀川と呼ばれているあたりに降り立った。
「こんなときに佐助さんだったらどういう風に調べるんだろう。こまったな」
いざ調査をするといっても不慣れなことにハルアキは困ってしまった。途方にくれていると
「どうかしましたか。ハルアキ殿」
見知らぬ女の人が名前を呼ぶ。
「えっどちらさんでしたか?」
「佐助ですよ。坊ちゃん」
旅の女性に変身した佐助であった。いつもながら神出鬼没な人だ
「よかった。ちょうど佐助さんがいればいいなと思っていたんですよ」
「例の相撲巡業の調査ですね。私もご一緒しましょう」
「何か手がかりを見つけたの佐助さん」
「ええ、巡業の女相撲の楽屋を覗き見していた男を見つけました」
「康成さん見たいな人だね」
「その男は驚いて逃げだそうとしたところを捕まえて話を聞きだすと。女力士たちが化け物にそして座長の男から玉を授かり闇に消えて行ったそうです」
「迦樓夜叉と蛾星かな。何の玉だったんだろう?」
「とりあえず南都に向かっていきますか」
安堂寺橋を渡りハルアキたちは奈良へと向かった。
すれ違う旅人に巧みに話を聞く佐助、ハルアキも感心してみていると
「この先の龍穴洞と呼ばれる大岩でふさがれ封印された洞窟に異変があったようです
。見に行きましょう」
龍穴洞と呼ばれるその穴は大きく口を開けていた。その傍らに10メートルはある大岩が転がっていた。
「穴の入り口に大きな足跡がありますね」
「きっと鬼若の足跡だ。この岩を持ち上げて移動したんだな。何があったのかな」
「ここにあったものは龍の力を強める龍玉というものがあったと伝えられているそうです」
「青龍が持ったら大変じゃないですか」
「そうですな。さらにもっと探って伊勢まで行きますか」
「うん、鬼若のことがわかるかもしれないですね。それにタウロのお使いもあるし急ぎましょう」
さらに歩みを進めるハルアキたちであった。
伊勢の神宮にたどり着いたハルアキたちはお参りをした。
「すごく力を感じる。何か体に力がみなぎってくるよ」
お参りの効果であろうか確かにハルアキの霊力がグレードアップしていた。ピコーナとミケーレも何か成長したようだ。
大勢の参拝客がいて佐助の情報収集はまたも引き当てた。
「この近くの村の弁輔という若者が神隠しにあったそうです」
「港に寄ってから向かっていいですか」
「お使いですねわかりました。ちょうど行く道すがらです」
タウロのお使いを済ませて村へ向かった。すぐにその母親という女に会うことができた。
「うちの弁輔が村の相撲大会前に突然行方がわからなくなりました。どうかお若い法師様みつけてくだされ。親思いのかわいい息子なんです」
あれこれ話を聞くと、鬼若という人物に間違いはなさそうであった。ただその容姿は大きく変わっているようだが。
「じゃあ京へ帰りましょうか。乗ってください」
「いや、私は歩いて帰りますから、坊ちゃま先にお帰りください」
「そうですか。ではお先に」
ハルアキは飛び去っていった。




